リサちゃん人形
こんにちは。俺の名前は茨木雅樹です。28歳で、サラリーマンしてます。
「パパぁ?」
「ん?」
「パパ、ケーキ屋さんね〜」
「お、おぅ」
4歳の娘、夏樹もいます。
「夏樹〜今パパ忙しいでしょ〜。パソコンしてる時は邪魔しない約束でしょ?ママがケーキ屋さんしてあげるから」
麗しき妻、華夏美もいます。ちなみに26歳です。
「えーママがやるの?ママ料理下手じゃん」
「いいじゃないの!遊びなんだから!」
「リアリティに欠けるわっ!」
「どこでそんな言葉覚えたのよっ!」
「うわぁママが怒ったぁ!」
夏樹は走り去る。
「待てー!食い逃げじゃー!」
いやいや、違う違う。
華夏美は娘を追いかける。…また下の階から苦情来るぜ…。
実は俺、最近までアメリカに行ってました。夏樹が1歳の頃から最近までずっと向こうにいたので、かなり久しぶりの日本を満喫している。
単身赴任中の俺が娘の成長を知るには、専らインターネットに限る。俺のパソコンは、娘の写真でいっぱいだ。
だが、最近悩みがあります。
『なぁー!雅樹よ!腹が減ったぞー!』
…娘の部屋に居座るアレだ。
俺が帰国して、娘の部屋に入ったある日のことだ。その日娘の部屋を開けると、奴はいたのだ。
娘は地面で絵を書いていた。その背後のベッドの枕の上に、奴がいた。奴は枕の上で薄ら笑いを浮かべて俺を見ていた。
『よぉ。お前が夏樹の父親か?』
…喋った。
俺は入りかけた娘の部屋から出た。
意味わかんねぇよ。
深呼吸してもう一度ドアを開ける。
『無視すんじゃねぇよ、ハゲ』
ハゲてねーー!!!
「パパ?」
娘が不思議そうな顔をして俺を見上げた。
「何だ、あの悪人面の人形は」
娘は振り返る。
「リサちゃん?」
「そうだ、あいつ……あぁ?!」
人形はいつもの営業スマイルに戻っていた。
「昨日ト●ザらスでママに買ってもらったの」
「へ…へぇ…」
娘はまた絵の方に向き直って続きを再開した。
すると人形はまた悪人面をして
『可愛い娘だな』
と言ってきた。
『あたしに向かって悪人面とは何だ。あたしは全世界のアイドルだぜ?わかってんのかよハゲ』
「ハゲてねーよ!」
「何言ってんのパパ」
娘はまた不思議そうな顔をして俺を見上げる。
「あ…いや…」
人形を見ると腹を抱えて笑っている。
…あのクソ女…!
俺の日本の温かい家庭は、音を立てて崩れていくのである…。