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021 黄昏、屋上、そしてエピローグ

「――こんなところにいたのか」

 声に見上げると明智が立っていた。

「ん……ああ。後からじゃ入りにくくてな」

「あまり気にするものではないと思うぞ。実際、抜けてくるのも簡単だった。後から入っても誰も気づかない」

「はは。それならそれで、もう行かなくていいよ」

 目の前、グラウンドでは打ち上げよろしく、後夜祭が行われていた。グラウンドのいたる所で各クラスが固まって騒いでいた。

 俺はゴールの瞬間ぶっ倒れた、らしい。自分でもゴールテープを切ってからの記憶がないから間違いないだろう。

 そこから聞くところによると、救護テントに運ばれ、アスリートよろしく酸素ガスを吸わされ、そのまま寝ていたとのことだった。目を覚ましたのはついさっきで、閉会式も何もかもが終わった後になってからだった。

「さて。前振りを長くとりすぎるのは良くないな」

 明智は俺の前に立ち、そう言った。さらりと髪を払う。その腕には包帯が巻かれていた。それでも夕暮れにその姿は映えた。

「――どういうことだ?」

「鈴が屋上で待ってる」

 明智は短くそう答えた。

「……そう、だったな。そういや、約束してたな」

「約束ではない。氏が決めたことだ」

 そう。リレーは一位だった。

 これもまた聞いた話になるのだが、俺と相手はほとんど同着で、どっちが一位か揉めたのだそうだ。相手は二年六組。要するに、その時点での一位のクラスだったらしい。どちらも優勝が懸かっているとなれば、引くのは難しいと想像に容易い。だけど、ある意味あっさりと決着はついた。

 その立役者はこいつだ。明智だ。

 これを予想していたのかどうかは不明だが、明智は実行委員としてビデオカメラをゴール地点に設置していたのだ。勿論、テープを回してないわけがない。それを巻き戻し、確かめたところ、俺がほんの少しだけの差で先にゴールしていたというわけだ。

「――本当に、勝ったんだな」

 遠くで他のクラスよりひときわ騒いでいる集団。俺たちのクラスだ。

「ああ。氏の頑張りのおかげだ」

「よせよ。皆が頑張ってくれたからだ。俺一人じゃどうもできなかったよ」

 俺がそう言うと、明智はそれ以上は何も言わなかった。

 俺はその様子を見て、立ち上がった。

「じゃあ、待たせるわけにもいかないからな。行ってくる」

 俺の言葉に明智は短く「ああ」とだけ答えた。



 校舎の中にはちらほらと人が見えた。俺と同じく後夜祭を逃げてきたのだろう。

 その中に見知った顔を見つけた。

「――春風」

「ふん、あんた何やってんのよ」

 そう冷たく春風は言う。

「あ、いや……ちょっと用事が」

「――――」

 じろり、と春風の視線が俺を突き抜ける。

 そして、春風は右腕を振り上げ、

「――っ」

 俺の胸にゆっくりと振り下ろした。

 とすっ、と俺の胸に着地する。

「ねぇ、言ったよね」

 平坦な口調。

「あたし――あたしの友達を泣かせたら許さないって」

「……ああ」

「でも……」

 そこで春風は短く言葉を切り、俯く。

「…………一度だけ、許してあげる」

「……え」

「だから…………もう、いい!」

 そう言うと、春風は俺の胸をそのまま拳で押す。それに俺は体勢を崩した。ただでさえリレーで疲れ切っているのだ。

 そんなことをよそに、春風は俺に背を向けると、そのまま去って行った。

「……春風」

 思わずそう呟く。

 春風の姿はもう見えなくなっていた。


 改めて俺は屋上へと向かう。

 歩き慣れた階段を上り、屋上のドアを開ける。

 これも見慣れた、屋上の光景が広がる。

 唯一違うのは、そこに秋月だけがいることだった。

 夕暮れの赤い日差しを受けながら、秋月は立っていた。

「よぉ。待たせたな」

 俺の言葉に秋月は首を振った。

「……ううん。大丈夫。それに、やっぱり人の多いところは、苦手、だから」

「そうか」

 俺はそう言って、フェンスまで歩く。眼下にはグラウンドが広がっている。うちのクラスも確かめることが出来た。

「皆、盛り上がってたな」

「……うん」

 秋月はそう短く答え、

「中ッ原君の、おかげ、だよ」

 と付け加えた。

「俺の?」

 聞き返した俺に、秋月はこくんと頷いて答える。

「……中ッ原君が、リレーで勝ってくれた、から」

 そしてそう続けた。

「……中ッ原君、カッコ、よかったよ」

「俺は……別に」

 秋月は小さく首を振る。

「ううん。春ちゃんも、ちーちゃんも、カッコよかったけど……中ッ原君が、一番カッコよかった、かな」

 そう言って、秋月は小さく微笑む。

「さんきゅ。そう言ってもらえると、嬉しいな。走ったかいがあったよ」

「……中ッ原君、頑張ってたもん、ね」

「それを言うなら、さ。秋月だって、頑張ってたじゃないか」

「……私は、そんな」

 秋月はそう言うと、目を伏せ、首を横に振る。

「謙遜すんなよ。団旗、よく出来てたじゃねえか。他の奴も言ってたぞ。このまま団旗として使い終わるのも勿体無いとかも言ってた」

 秋月の顔は真っ赤に染まっていた。照れ臭そうに、少し視線も俯き気味になっている。

「……あ、あれは……春ちゃんや、ちーちゃんが、いたから」

「そういや、言ってたな。春風や明智をイメージして描いたって」

「……うん」

「だったら、一緒だな」

「え……?」

 秋月が俺を見る。

「俺も、春風や、明智がいたから頑張れた。だから、一緒だ」

 俺も秋月に視線を返して、そう言った。

「……うん」

 秋月は微笑んでそう返す。

「……なぁ、秋月」

 俺はそう言って秋月を真っ直ぐ見た。秋月も俺を真っ直ぐに視線を返してくる。

 どくん、と心臓が高鳴る。

「俺、秋月が頑張ってるのを見て、俺も頑張らないと、って思った」

 言葉は素直に出てくる。思っていたこと、そのままの言葉。

「完成した団旗を見て、特にそう思った。それで――」

 秋月は真っ直ぐ、俺の言葉を聞いていた。

「もし、リレーで勝てたら、言おうって」

 秋月は何も言わない。

 空は夕焼けに染まっている。秋月の顔は赤く見えた。

「秋月。俺、お前のこと――」

 何も言わなかった。でも、それ以上を口に出せなかった。

 真っ直ぐに見つめ返してくれる、秋月に俺の言葉は止められた。

 秋月は静かに首を振った。そして、口を開いた。

「……ごめん、なさい」

 秋月はようやく俺から視線を外すと、俯き気味に頭を下げて、言った。

「中ッ原君、のこと、他の男の子とは違う、とは思ってる。でも、まだ、そういうのじゃ、ないの。……ごめんなさい」

 言葉を選ぶように、丁寧に、秋月は答えた。

 真っ直ぐに見える秋月の瞳に、偽りの色はない。

「……そうか」

 自分でも驚くほど、素直に言葉が出た。

 さぁ、と一筋の風が吹いた。それは、少しだけ冷たい。

 そうか、夏も終わるんだな。

「……それじゃあ、ごめん、ね」

 秋月はそう言うと、俺に背を向け、ドアの向こうに消えて行った。

 俺はその背中を見送ることしかできなかった。

 ドアに向けられた視線を外し、フェンスへと向ける。フェンスの向こう、グラウンドではフォークダンスが始まろうとしていた。程なくして楽しそうな音楽が流れてくる。

 俺はそれを見ることを止め、背中を向けると座り込んだ。

 見慣れた風景。違うのは、今が夕暮れ時だということぐらい。


「――そうか、ここから始まったんだな」


 気が付けば一人呟いていた。

 一週間近く前の話。いや、言い換えれば一週間しか経っていないんだな。

 この場所で、明智と話した。

「……黄昏ているな」

 そう、こんな風に、前振りもなく突然に。

「そういう時間と気分だからな」

 そろそろ日も完全に沈むだろう。空も夕焼けの赤から黄昏の紫に変わりつつある。

 俺は夕焼けを浴びて佇む明智へと視線を向ける。

「残念だったな」

「……聞いてたのかよ」

「ああ。無論だ」

「何堂々と盗み聞きを告白してんだよ」

 それでも不思議と怒る気にはなれなかった。

「私には責任があるからな。さて、落ち込んでいる暇はないぞ。次の手を考えよう」

 そして明智はそう言った。

「鈴は『まだ』と言っていただろ。何も望みがないわけではなさそうではないか」

「お前……」

 こいつは、全くもう。

「さあ、次は氏のアイディアを聞こうか。時期としてはそろそろ文化祭もある。もう少しすれば修学旅行も入るな。それに、」

「いや――もういいよ」

 テンポよく明智が話すのを遮って、俺は言った。

「いい、とは?」

 珍しく、疑問の色を浮かべた明智の言葉。

「ストレートに言ってしまえば、諦める、ってことだ」

 あっさりと、俺はそう言った。言うことが、出来た。

「別に、自己満足とか、振られたからとか……いや、それはないわけではないんだ。……そういうのだけじゃないんだ。さっき、秋月に『ごめん』って言われた時、素直に受け入れることが出来たんだ。驚くほど、素直に」

 ああ、そうだ。考えるより早く、言葉が出ていた。そして今ならその理由も分かる。

「なんて言うか、さ。結局、秋月はそういうのじゃなかったんだ。勿論、秋月は可愛いと思う。好きか嫌いかで聞かれれば、間違いなく『好き』だって答えれる。振られた、言い訳にしか聞こえないかもしれないけど……さ。実際、秋月が『うん』って答えてくれてたら、今の考えは持てなかったと思うし」

 俺はそう言って立ち上がった。空は更に青みを増している。山の線の少し上に、小さな明かりが見えていた。宵の明星、か。

「――なんつーかな。……俺にとって、秋月ってのは、さ。星みたいなもんなんだ、って思う。綺麗で、憧れの対象で、でも、手を伸ばしても届かなくて、手の届かない場所にあるから綺麗で。秋月とは、今の距離でいたいんだ。男性恐怖症が治らなくていい、とかは思わないけど、少なくとも俺とは今のままで十分だって、思ったんだ」

 俺はそこまで言うと、正面の明智を見た。

「氏も中々に詩人だな。しかし……そうか。氏がそう言うのなら仕方ないな」

「悪いな。色々、手伝ってもらったのに」

「……いや、私もあまり何もできなかったよ」

 明智は静かにそう言った。

「明智。こうなっちまったけどさ、俺、後悔は全くしてないんだ。お前、言ってただろ『結果がプラスであれマイナスであれ、絶対値はプラスなんだ』って」

「ああ」

 短く答える明智。俺はそれを見て、言葉を続ける。

「そんな気分なんだ。今日まで頑張ったのは、無駄にはならないって思える。やれるだけやったって」

「――そうか、氏がそう言うのであれば、これ以上私が手伝えることは無いな」

 明智は少し時間をかけて、そう言った。

 そして、空を見た。

 俺もつられて空を見る。

 空は既に黄昏に暮れている。夕焼けもその色を、藍色へと移している。

「――――」

「…………」

 小さな、静寂。

 遠くにはフォークダンスの音色が聞こえる。

 空を見る明智の横顔は物憂げで、まるでこの空の色合いのように見えた。


「――だが、それならば」

 明智は空を見たまま、呟くように言った。


「――それならば、私も氏に一つ言わせて欲しい。何よりも自分のために。私も氏の言葉を借りるとすれば『自分を貫く』ために」

 そして明智は真っ直ぐに俺を見据えた。その声は張りを取り戻している。


「好きだ」


「……え」

「む。聞こえなかったか。フォークダンスの音楽があるからな。ではもう一度言おう。私は氏のことが好きだ。大好きだ。愛してる」

「ぶっ、な、なん、で……」

 突然の告白に咽てしまう。おかげで俺の言葉も途切れ途切れになっていた。

「なんでとはまたお言葉だな。私が氏を好いていることに理由が必要か?」

「そ、そりゃあ……理由は、知りたいが」

「ふむ。とは言え、理由と言われても説明しにくいのだがな。人を好いている理由の説明というのも如何せん恥ずかしく思える」

 そう言っている明智の様子はこれっぽっちも恥ずかしがる素振りはなかった。

「まぁ、理由ではないのだが、一つ証拠を挙げるなら、私は好きでもない男子に弁当を作ってなど来ないということぐらいだな」

 率直、直球、どストレートな回答だった。

「も、もう一つ聞いていいか。いつからだ?」

「氏は質問が多いな。まぁいい。折角だし答えるとしよう。初めからだ」

 明智は淡々と答えた。でも、どこかその声は楽しげに聞こえる。

「初めって……」

「始業式、教室に入って氏を見た瞬間から、と答えるのが分かりやすいか。所謂、一目惚れというやつだ」

「んな、一目惚れだなんて……」

「ありえない、と思うか? だが、氏も鈴に抱いていた想いは一目惚れからではなかったのか? 氏の言いたいことも分かる。氏の鈴に対する想いは、この一週間で先ほど聞いたようなものに変わった。だが、私は別だ。私の氏に対する想いは、この一週間で増してしまった。それだけの違いだ」

 そりゃ……そうだ。納得できなくはない。でも、それはこの一週間、明智は俺の気持ちが分かった上で手伝ってくれていたということになる。

「私は、私がやりたいようにやっていただけだ。それこそ氏の言う様に、後悔はしていない。だが、状況が変わったというのなら、私も動き方を変える。それだけの話だ。そう決めたんだ」

「それだけって……」

 言ってくれるよ。それだけがどれだけ深いんだよ。少なくとも俺にはそこまでの考えを想像することはできない。

「さて。氏には答えてもらおうか。私は氏のことが好きだからと言って、それを伝えるだけで満足する女ではないぞ。きっちり、答えが欲しい。勿論、ここで『考えさせてくれ』などと男らしくないことを言って欲しくもないぞ」

「お前な……」

 どうにも明智らしいよ。こいつと話していると、釣られて俺までさばさばしてくる。そんな雰囲気は決して嫌いじゃない。

「では、改めて」

 そう、前置きすると、

「さて問おう。氏には選択肢が二つある」

 目の前に立つ女は、芯のあるよく通る声でそう言った。

 ああ、そうだ。

 こうして始まったんだ。

 そうして始まった話が終わって、またこうして始まろうとしてるんだ。

 目の前の女の名前は明智。

 未だ残暑厳しいこの九月。

 学校の屋上で、明智は仁王立ちよろしく表情も変えることなく俺の解答を待っている。

 さあと吹く風にその髪がさらさらと揺れる。

 前髪は眉とほぼ同じ高さで真っ直ぐに切りそろえられ、後ろ髪は腰まで届きそうに長い。スカートの下は膝上まである黒いニーソックスがその肌をギリギリまで隠している。そのバランスは、すらっと細い明智にはとてつもなく似合っていた。

 いや、もう悩む必要はない。

 ああ、答えなんか決まってる。

「――一つ聞いていいか」

「ああ、何でも構わない」

「俺、さっき振られたばっかりなんだ」

「知っている。聞き耳を立てていたからな」

「……お前さ、ぶっちゃけ過ぎだろ」

「ふふ。もう氏に隠し立てをすることは何もないからな」

 あっけらかんと明智は答える。それでも隠すところは隠しておいて欲しいかもしれない。

「今の私にとっては氏が振られてすぐだろうがなんであろうが、もう関係あるところではない。それに、振られてすぐ、傷心の期間は次の恋愛に繋がりやすいとも言うではないか」

 それの多くは男性側の意見だと思う。まぁ、こいつはどっちかっていうと俺より男らしいんだけどさ。

「……ええと。まぁ、それで、だ。俺がまだ秋月のことを好きだっては思ってないのか?」

「無論、それも考えている」

 明智はあっさりとそう答えた。

「だが、それでも構わないと思っている。ある意味、初めから知っていたことだ。これ以上状況が悪くなることはまずない。それに、氏が私のことを好いていないのであれば、振り向かせればいいだけの話だろう? それは付き合うことになってからでも遅くはない」

「……ははっ」

 思わず笑いがこぼれた。やっぱ、明智ってこういうやつだよ。真似しようったってそうそう真似できそうにもない。

「……じゃあ、もう一つ」

「一つではなかったのか?」

「こっちは質問じゃない。お願い事だ」

 明智は「ふむ」と首をかしげつつ頷いた。

「まず、俺のことを『氏』って呼ぶのを止めて欲しい。別に嫌じゃないんだけど……」

「成程。名前で呼んで欲しいのだな」

 物わかりが良すぎるのも考え物だと理解した。なんか別の意味でこっちが恥ずかしくなってくる。

「……で、次」

「青磁君は頼みごとが多いな」

 明智はにこりと笑うとそう言ってきた。

「うっ……いきなり使ってきやがった……」

 予想以上に破壊力が高い。これは耐えきれないかもしれない。

「ともかく! 俺は名前で呼んでほしい。だから、俺もお前を名前で呼びたい。で、俺はまだお前の名前を知らない。自己紹介で聞き逃しただけなんだが……だから、まぁ教えてくれ」

 今更だ。本当に今更。知らなかったのがどうしてかと思うほどに。まぁ、明智ってのが呼び方としてしっくりきていたってのもあるんだろうが。

 しかし、すぐに帰ってくると思っていた返事は中々返ってこなかった。

「ん? どうしたんだ?」

 明智の顔を改めて見れば、目が泳いでいた。心なしか、頬も少し赤く染まっている。

「あ、いや……名前、か。そう、だな」

 言葉もどこかしどろもどろだ。おいおい、こんな明智見たことねぇぞ。

「そ、そうだけど、どうしたんだよ」

 釣られて俺も言葉は途切れ途切れになる。

「い、いや、名前……苦手、というか……」

 明智はぽつぽつと単語毎に言葉を発していく。まるで秋月が喋っているかのようだ。いつものざっくりとした喋りの明智ではない。

「私には、少し、女の子らしすぎて……」

 明智は明らかに照れていた。恥ずかしそうに頬を染めて。視線は俺に合わせようとしない。後ろに回した手と、足はもじもじとさせている。

「は、恥ずかしいんだ……」

 なんだよ、こいつ。やばい。

「……教えてくれ」

「…………花子」

 なんだよ、ほんと。

「……可愛いじゃん」



 後日談というか何というか、詰まる所その翌日、体育祭の振り替え休日の日の話。

 俺は午前七時きっかりにかかってきた電話で叩き起こされると、寝起きで働いていない頭に「午前九時に駅前まで来るように」と約束をさせられた。

 一瞬で目は覚めて、俺はばたばたと着替えを済ませると、妹の作った朝飯を食うことなく駅前に向けて飛び出した。後から妹から文句言われるかもしれないがそんなことはどうでもいい。

 ウチから駅までは歩いて二十分程度。このまま行けば早く着きすぎるかもしれないが、それも構わないだろう。どうせ、あいつのことだ。三十分どころか一時間は早くに待ち合わせ場所に来ているに違いない。むしろ下手すれば既に待ち合わせ場所に着いていて、そこから電話をかけてきたという可能性だってある。まぁ、あいつだったらどんな可能性だって否定できないんだが。

 それでも、俺はあいつより早くに待ち合わせ場所に着いておきたいと思う。

 だって、楽しみじゃないか。あいつの私服なんて見たことがない。いくら生真面目なあいつでも休みの日まで制服でいるわけじゃないだろう。それに――

「デートぐらい、私服だろう」

 告白してすぐ翌日にデートだなんて、いかにもあいつらしい。

 さて、と。

 もうすぐ駅前だ。

 あいつが来たら、何を話そうか。体育祭の話。試験の話。今度の文化祭の話もいいな。修学旅行の予定もそろそろ考えないといけない。それに、あいつ自身の話だって聞いてみたいところだ。

「そうだな」

 話そう。色々と、これからのことを。時間は沢山ある。一週間という時間制限なんてないんだ。話したいことはいくらでもあるんだ。

 でも、最初は名前を呼んでやろう。

 あいつがどう反応するか楽しみだ。想像がつかない。

 ――これからの俺たちみたいに。そこから、始めよう。

これにて、『ボーイ・ミーツ・ガールズ』完結です。

最後の部分は『涼宮ハルヒの憂鬱』エピローグ部分のオマージュのつもりです。


ここまで手直ししつつアップロードしてきましたが、修正点が多く、まだ未熟だと実感しました。

修正前原稿を見て「こんなのよく投稿できたな」と呟きつつの修正でした。

それでも、どうにか、(まだ修正点も多いと思われますが)どうにか最後まで掲載することが出来ました。

それもここまで読んで下さった皆様、感想を下さった方のおかげだと思います。

誠にありがとうございます。


これから先、青磁や明智(花子と呼んであげないで)の物語は続きます。いくつかネタもあります。(よく作中で出て来た妹の話などなど)

そのあたりをいつかまた作ることが出来れば、と考えています。


それでは、ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。

よろしければ感想など頂ければ幸いです。

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