第3話 幻の資格 友情検定一級
友情が国家資格になった世界。
二級まではオンラインで取れるが、一級だけは「郵送通知」と「現地試験」。
誰も本当に受けた者を知らない、幻の検定。
そんな通知が、ある日、俺のもとにも届いた――。
友情検定二級に合格してから、一か月ほど経ったある日。
一通の手紙が届いた。
手紙? そんな制度、まだ残ってたのか。
封筒そのものよりも、
「郵送」という仕組みがまだ動いていることの方が驚きだった。
最近の検定は、すべてオンラインで完結する。
けれど、「友情検定一級 受験資格通知」だけは、なぜか郵送らしい。
中には、丁寧な手書きの紙が入っていた。
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「友情検定一級受験資格通知」
この通知を受け取った貴方には、友情検定一級を受ける資格があります。
20〇〇年〇月〇日、友情検定本部にお越し下さい。
試験内容は当日発表致します。
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最初は冗談かと思った。
だが検定本部に問い合わせると、「間違いありません」と淡々と返された。
どうやら本物らしい。
ので――指定された日に行ってみることにした。
二級を持っているだけでも、就職やら対人スコアやら、いろいろ有利だ。
一級は「都市伝説」みたいなもんだと思っていたが、
まあ話のネタにはなるだろう。
……と軽い気持ちで向かったのだが。
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当日、告げられた試験内容は――
試験期間:未定
内容:追って説明
「は?」と思う間もなく、スマホと時計を没収された。
試験会場は山の上。
案内に従って登ると、古びた木札が風に揺れていた。
墨で書かれた言葉が一行。
「口を慎め、心で語れ」
……つまり、しゃべるなってことか?
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参加者は十人。
与えられたのは、日記帳と湯呑みだけ。
朝は木の鐘で起床し、全員で座禅。
昼は無言の食事。
夜は沈黙の散歩。
時間の流れさえ、音を立てずに通り過ぎていった。
三十日を過ぎたころ、ようやく気づく。
「沈黙」は、孤独よりも重い。
でも、重いからこそ、心の底に誰かが浮かび上がる。
俺は日記にこう書いた。
“沈黙の中で、笑顔の記憶だけが残った。”
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三十五日目の夕暮れ。
庭を歩いていた隣の女性が、転びそうになった。
反射的に手を伸ばして助けた瞬間、監視の鐘が鳴った。
ルール違反。沈黙破り。
彼女は泣きながら、何度も頭を下げた。
俺は、ただ笑った。
「いいって。気にすんなよ」
その声に、彼女が小さく笑った。
その笑い声は、沈黙の世界をやぶるように澄んでいた。
夕焼けの中で、二人だけ声が響いた。
きっとあの瞬間だけは――神様も笑ってた。
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修了式の日。
試験官が静かに告げた。
「全員、合格です」
誰も言葉が出なかった。
何も測っていないように見えたのに。
試験官は続けた。
「友情に“等級”はありません。
ただ、あなたが誰かを思った時間だけが、証明になります。」
そう言って差し出された封筒の中には、
小さな紙切れが一枚。
『友情検定 一級合格証
――あなたはすでに、友を持つ者。』
紙は薄く透けて、向こう側の光が見えた。
誰かと笑った日の夕焼けのような、優しい光だった。
友情検定一級。
その合格証は、紙ではなく、心に刻まれるもの。
沈黙の中で思い出す誰かがいるなら――その時点で、もう合格なのです。
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