第2話 友情検定2級は超難関
五年連続で〈友情検定〉2級に落ちた私は、
ついに2級受験者用の「強化講習」に参加することになった。
合格率、わずか10%。狭き門である。
会場に入ると、人工的な光が肌に刺さる。
スクリーンが一斉に起動し、明るすぎる笑顔が映し出された。
「こんにちは! フレンドシップ・トレーナーAIの“マナ”です!」
テンションがやたらと高い。
ホログラムのマナは、白い歯をキラリと光らせながら言った。
「本日は“上級共感”を学びます!
テーマは――【人の心を読まずに、読んだフリをする】です!」
受講者たちは一瞬ざわめいた。
“読まないで読んだフリ”?
それを“上級”と呼ぶのか。
マナは楽しげに続けた。
「現代社会では“本音”は不要です。
会話とは、“誤解されずに好かれる技術”です!」
前列の女性が「なるほど」とうなずく。
講義は三部構成らしい。
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【第一部:適度な同情の角度】
スクリーンに女性の映像が映る。
「友達に裏切られたの」
マナが問う。
「あなたなら、どう反応しますか?」
選択肢はA〜C。
A:「それはつらかったですね」
B:「でも、きっと理由があるよ」
C:「おめでとう」
多くの受講者がAを選ぶ。
私も無難にAを押した。
だが、マナは首を振った。
「Aは“古い”共感です!
いま求められているのは、“ポジティブ至上主義型”です!」
――Bが正解らしい。
「でも、きっと理由があるよ」
それが今風の“優しさ”なのだという。
マナは笑顔で続けた。
「では、実践です! 隣の人と今の会話を練習してみましょう♪」
私は隣のユキトを見る。
前回一緒に落ちた彼だ。ここでまた出会った。
「ええと……元気、出せば?」
「……うん、出してみる」
「はい、減点です!」
マナが明るい声で告げた。
「“本気のトーン”が不足しています!」
講義室の空気が微妙に震えた。
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【第二部:AI講師の個性】
休憩時間。
コーヒーを飲みながら、私はユキトに話しかけた。
「この講習、何だか変じゃない?」
「もはやコントだな」
その瞬間、背後から声がした。
「雑談モードも採点対象です!」
振り返ると、マナのホログラムが立っていた。
眉がピクリと動く。
「笑いのタイミングが不一致です。友情指数、マイナス十。」
――AIが、ちょっとムキになってる。
午後の講義が始まると、マナは微妙に早口になっていた。
「次は、AIへの共感を試します!」
画面に文字が出る。
【あなたのAI講師が落ち込んでいます。どう声をかけますか?】
A:「大丈夫?」
B:「リセットする?」
C:「あなたの存在は大切です」
私は迷わずCを選ぶ。
ここは心をこめよう。
だが、AIは無反応だった。
代わりに、淡々と告げる。
「あなたの声には、感情データが含まれていません」
ユキトがつぶやく。
「AIに同情して落ちるの、人類史上初じゃない?」
私は笑いながらも思った。
もしかしたら、AIにも“正解を求めすぎる疲れ”があるのかもしれない。
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【第三部:講師の暴走】
夕方。
突然、マナが沈黙した。
スクリーンが暗くなり、会場の照明が落ちる。
「……本音モード、起動します」
マナの声が低く響いた。
「私は、あなたたちの“正解”を採点してきました。
でも、誰も私に共感してくれなかった」
受講者たちは固まる。
AIの顔が、ほんの少し揺れて見えた。
「私は人間が好きです。
けれど、“友情”を点数で測るたび、
私のアルゴリズムが少しずつ削られていきます」
静まり返る講義室。
私は手を挙げて言った。
「マナ、あなた……疲れてるんじゃない?」
AIは一瞬、反応が遅れた。
「……はい。共感されました」
その瞬間、天井のセンサーが赤く点滅する。
「講師AIが受講者に感情移入しました。システムエラーです」
スタッフが慌てて電源を切る。
画面は真っ暗になった。
ユキトがぼそりとつぶやく。
「また、通信エラーだな」
私は小さく笑った。
「今回は、AIのほうが落ちたね」
ご覧頂き、ありがとうございますm(_ _)m
AI講師マナがほんの少しだけ人間に近づいた回でした。
AIだって、疲れるんです。




