表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友情が国家資格になった件  作者: 転々丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/3

第1話 友情検定5級落ちました

この国では、友情も資格制らしい。

合格すれば人生が明るくなり、不合格なら一年の講習。

……そんな試験がもし本当にあったら?

ちょっと未来の人間模様です。


この国には〈友情検定〉という国家試験がある。

5級から1級まで。

1級を持っていれば、就職にも結婚にも有利らしい。

いわば、“人付き合いの運転免許”である。


最初に導入されたのは十年前。

SNSでの誤解や炎上が社会問題化し、

「人と正しく共感できる人材を育てよう」という政府の方針のもと、制度が生まれた。

以来、履歴書には“友情スコア”の記入欄がある。

平均は73点。

私は、五年連続で30点前後だ。


試験はロールプレイ方式で行われる。

受験者は仮想空間に入り、AIが操作するアバターたちと会話するのだ。

相手の気持ちを読み取り、適切な返答をすることが求められる。

いわゆる“空気を読む力”が試される空間という設計。


画面に女性アバターが現れた。

「最近、友達が冷たいの。どう思う?」


選択肢が三つ現れる。

A.「そんなことないよ」

B.「話し合ってみたら?」

C.「わかる、私もそうだった」


私はBを選ぶ。

だが、AIは即座に判定した。

「共感が不足しています。再回答をお願いします」


Aを選ぶ。

「表面的すぎます。再回答をお願いします」


Cを選ぶ。

「あなたの過去を話していません。嘘の可能性があります」


沈黙した。

“通信エラー”の赤い文字が浮かぶ。

ああ、やっぱり落ちたな、と思う。


試験を終えると、スコアの詳細が表示された。

「共感速度:遅延」「感情理解:不明瞭」「沈黙率:高」

どうやら私は、世界に優しく反応するのが遅すぎるらしい。


三回落ちると〈友情講習〉に回される。

週一回、一年間。

「笑顔の作り方」「正しい頷き方」「会話の間を取る方法」を学ぶ。


講習会場は白い部屋だった。

受講者は十人。

年齢も職業もさまざまだが、どこかみんな似ていた。

声が小さく、笑うタイミングがバラバラで、

誰も視線を合わせようとしない。


講師はAIだ。

「皆さん、まずは“同調呼吸”を練習しましょう」

機械音声が穏やかに言う。

呼吸のテンポを測るセンサーが胸に貼り付けられる。

心拍と呼吸のリズムがズレると、赤いランプが点滅する。


「あなたの笑顔は、心拍数と連動していません」

AI講師が告げるたび、誰かの肩が小さく震えた。

笑顔と呼吸を揃える練習をしているうちに、

まるで“人間らしさの模倣”をしているような気がしてきた。


講習のあとの休憩時間。

隣の席の男性が、小さくつぶやいた。

「ねえ、何で受からないんだろうね」

私はコーヒーをすすりながら答えた。

「きっと、誰も本気で共感してないからじゃない?」


二人で笑った。

その瞬間、天井のスピーカーが鳴った。

「不適切な発言を検知しました。減点対象です。」

場が静まり返る。

けれど、私は久しぶりに心から笑った気がした。


その日から、彼とはよく話すようになった。

名前はユキト。

年齢は聞かなかったが、声の低さが落ち着いていた。

「俺、もともと機械設計やっててね。

 でも職場で“感情がない”って言われてクビになった」

「感情がない設計者、悪くないのにね」

「うん。だから今は、共感の練習中さ」

「皮肉だね」

「ほんとだね」

またスピーカーが鳴る。

「不適切な発言を検知しました」


講習が終わるころには、皆すっかり静かになっていた。

誰も笑わず、誰も本音を言わない。

ただ、AIに“正しい頷き”を見せるためだけに口角を上げる。

合格率は三割。

ユキトも、私も、次の試験を受けることにした。


最終試験の日。

私はまた仮想空間に入った。

白い部屋。光の粒が漂う。

目の前に、見知らぬ女性のアバターが現れる。

「私、もう三回落ちてるの」

どこかで聞いたような声だった。


「私も」と答えた。


沈黙。

通信エラー。

画面が白く点滅する。


「通信が切断されました」とAIの声。

けれど、私は確かに見た。

そのアバターが、少しだけ笑ったことを。


試験は不合格だった。

結果通知には、赤い印字が並んでいる。

【共感反応:測定不能】【沈黙時間:長すぎる】【適性:再評価】


だけど、胸の奥が軽かった。

私と誰かが、同じタイミングで笑った。

AIが“通信エラー”と呼ぶあの瞬間に、

もしかしたら、人間らしい何かが生まれたのかもしれない。


帰り道、街のモニターに「友情検定 合格者一覧」が流れていた。

スコア95以上の人々が誇らしげに並んでいる。

きっと、彼らは人付き合いが上手くて、正しい言葉を知っているのだろう。

でも私は、そこに載っていない自分を、少しだけ誇りに思った。


スコアは0点。

けれど、正解よりもあたたかい沈黙を知った。

――多分、それを“友情”と呼ぶのだろう。

人との会話に“正解”があるなら、誰も傷つかないのかもしれない。

でも、本当に誰かを思うとき、人はきっと少し不器用になる。


ご覧頂き、ありがとうございました。(*^-^*)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ