1 他と入学式
この世界には、悪魔がいる。
悪魔。
それは、5年前に突如として現れた。 どこから来たのかも、何のために生まれたのかも、誰にもわからない。 いや、生きてるのかすら、わからない。
「悪魔」という名前は、誰がつけたのかも不明。
そして、悪魔には 人間に友好的なものと、敵対するものがいる。敵対する悪魔は政府公認の「浄魔」という組織によって討伐される。浄魔庁と呼ばれることも多々ある。
対照に悪魔を利用する者たちもいる。それが俺達、殺し屋。殺し屋は悪魔と契約し力を借り依頼を受け、任務を遂行する。
依頼されたことなら何でもやるので実質便利屋だ。実際俺も昨日、猫探しを依頼された。猫探しなんて殺し屋に頼むな。とは思うが依頼主には逆らえないのでしょうがない。
そして今回の依頼主は組織のボス沙羅橘、見た目は8歳くらいだが年齢は不明だ。容姿が幼すぎて少し怖い。依頼内容はこうだ。殺し屋育成学校に入学し、使えそうな奴を引き抜く。
俺は、災恐の黒烏と呼ばれている。
そう呼ばれるようになったのは、3年前。 ある都市で起きた悪魔暴走事件を、たった1人で片付けたからだ。正確には契約した悪魔とだが。
それ以来、依頼が途切れたことはない。 俺の名前を聞くだけで、悪魔が逃げるという噂もある。もちろん、そんなのは嘘だ。 悪魔は、逃げない。
殺し屋には、正式な手段でなる方法と、そうでない方法がある。正式な手段を踏めば、政府非公認ながら殺し屋証が発行されるらしい。
名前、契約悪魔、得意分野、過去の依頼履歴、すべてが記録される。
それを持っていれば、裏社会での信用は得られる。 殺し屋育成学校に入学し、卒業することでその殺し屋証が手に入る。俺は殺し屋証を持っていない野良。
大虐殺。
それが俺のいる組織の名前。どんな頭してたら、こんな名前をつけるんだろうな。いや、ただの厨二病かもしれない。
組織と名乗っているが、実際は俺とボスの2人しか組織にはいない。ボスも殺し屋証を持っていないので、ただの殺し屋名乗ってる頭のおかしい集団ということになる。
殺し屋育成学校。 表向きは特殊技能者養成機関という名前で、政府にも認可されているらしい。でも、裏では基本的な体術、悪魔と契約するための手段、などなどが教えられている。しかも卒業するとどこかしらの組織に入れる保証付きだ。
八咫導 鴉。今回使う偽名。 年齢は18、これは本当だ。契約悪魔は未契約ってことになってる。 本名も契約悪魔も、ここじゃ隠しておく必要がある。……本当は、もう契約してる。猫霊、俺の契約悪魔だ。
殺し屋育成学校。 名前だけ聞けば物騒だが、見た目は普通の学校と変わらない。 机があって、椅子があって、教師がいて、生徒がいる。 違うのは、ここにいる奴ら全員が人を殺すために来ているってことくらいだ。
今日、20X5年。殺し屋育成学校の入学式が学校付属の体育館で行われる。普通だった。 代表が喋り、拍手があって、校長が喋って。
「この学校は、殺し屋を育てる場所です。 それ以上でも、それ以下でもありません。卒業までに、何人かは死ぬでしょう。 それもまた、選別の一部です。」
校長がそう言うと、体育館全体の空気が引き攣った。新入生、120名の顔が強張っていくのがわかる。
「皆さん。卒業までの3年間、死ぬ気で生き延びてください。」
その言葉とともに入学式は終わりを告げた。