3話 God?
くんくん。
……なんかいい匂いがする。
ふわふわと漂う空気は甘くて、どこか懐かしくて、布団に潜ったときのような安心感があった。
目を開けると、そこは――空の上だった。
「え? え? えええ???」
足元に地面がない。白くて、ぼんやり光る雲のような場所に俺は寝転んでいて、周囲は淡く輝く空間に包まれていた。
美術の教科書で見たことがある。引きこもりをしていると学校から教科書が届くのだ。知ってたか。たしか最後の審判だっけ?
(天国……っぽい……?)
背後から、軽やかな声がした。
「やあ、ようこそ」
振り返ると、そこには中性的な姿の人物が立っていた。肌は透き通るように白く、背中には大きな羽。しかも、ふよふよ浮いている。
(あ、これ人物ではないな。いわゆる…天使とか?俺いい行いしたっけ?)
さっきの出来事が脳裏をよぎる。
喜一さんとうめさんの再会、そして――喜一さんが「Hello」とともに崩れ落ちた姿。
「なるほど。あれが走馬灯ってやつか。うんうん……いやいやいやいや」
首をぶんぶん振る。
(なんで俺、知らんおじいさんとおばあさんの感動再会ドラマ見せられてんの!? 俺の人生どこいった!?)
頭の中はツッコミの嵐だ。
すると、空中に浮かぶその存在がにこにこ笑いながら言った。
「僕は神です」
続けて言った。
「さっきのおじいさんね、『こんにちは』がトラウマなのに、“英語なら大丈夫だろ”って“Hello”って言っちゃったんだよ。ぷぷぷ……」
くしゃくしゃと笑いながら、神は頬を押さえる。感情ゆたかやな、と俺はラノベで想像した、神との違いを感じた。
「……いや、笑ってるけどな。死んだからな、あの人……」
「でもさ、君も面白かったよね? 吸い込まれるとき、家族のこと考えるかと思ったら――『魔人ブウちゃうねん』って言ってたし」
「見てたんかい!」
「うん全部。というか、君、ボケ?ツッコミ?のセンスあるよ。僕の話相手にぴったりだ。……うん、特別に任命するね。話相手!」
「それ特別か?」
あまりにも自由すぎる“神様”に呆れていたが、聞きたいことはある。
「じゃあ、さっきのアレ……あれって、あなた、いや神様が作ったのか?」
神はにっこり笑った。
「うん、あれは転生前に行う“世界お試し体験”みたいなもん。まあ、今回はちょっと感動過剰だったけど」
「……にしても死に方が変すぎだろ」
「でも僕はすっごく優しいんだよ。だって普通すぐ転生させたりするでしょ?それって少し可哀想だと思わない?」
神は楽しそうに宙返りした。
「ちなみに、君を吸い込んだあの本……僕の私物ね。つまり、“神の本”。あるいは、“神の紙”。……ふふ、神の“紙様”ってね!」
「ダジャレかよ!」
俺のツッコミが、空にむなしく響いた。