本当引きこもりってやつは…
本当本
つまらない毎日だ。
冗談抜きで、俺の人生、ほとんど「待機画面」って感じ。
なにしてるかって? そこのマイ(イマジナリー)フレンド、よくぞ聞いてくれた!
FPSだな。シューティングゲーム。
あと、本。読むやつな。ラノベとかファンタジー系とか。
……他? うん、たぶん、ある。はず。あると思いたい。俺のことはどうでもいいんだよ。なぁ、聞いてくれよマイフレンド!
先週な、とんでもねぇ強いプレイヤーとマッチしてさ。
@vusydxjb。読めねぇよ。なんだその暗号。
それでいてめちゃくちゃ強ぇ。開始2分で俺、画面の端で寝てたよ。仮想世界でトラウマ植え付けられた引きこもりって俺ぐらいだろ。笑えよ。笑え……ないな、うん。引きこもりでもトラウマが出来るなんてな。
まあ、そんなこんなで今日も一日、部屋の隅でぬくぬくと過ごしていたわけだが。
昨日だ。昨日の夜、ふと立ち上がった拍子に――床が抜けた。
いやマジで。突然。綺麗に、ぺりっと。
慌てて戻そうとしたら、そこに……本があったんだよ。
古びた装丁、よくわからない表紙。でも、なぜか手が伸びた。
開いてみたくなった。なんか、引かれる感じ。
「ヘイ、新人book! なんか面白いことやってみろよ〜」
……って、言ってみたはいいけど、だんだん虚しくなってきてな。
俺、何やってんだろって。声に出して言ってる自分に泣きそうになった。
でも、まあ……読むか。
それしか、ないしな。
ふむふむ……と俺は声に出して読んでいた。
「余は終日、書斎に蟄居し、身をもてあそばすこともなく、ただ徒らに日を送るばかりなり。」
おぉ、文語体。古い日本語ってやつか。
でも不思議とスラスラ読める。さすがに本を読みすぎて活字には耐性がついたらしい。
それにしても……なんだこの文章。まるで俺じゃん。
書斎? 俺の部屋。
蟄居? 完全に引きこもり。
日を送るだけ? まさにそれ。
「……なんか俺みたいじゃね?」
自然と笑みがこぼれた。
笑った。ゲーム以外で笑ったの、いつぶりだ?
なんかこう、同士を見つけたような気がして。
時代も場所も違う誰かが、同じ孤独を過ごしてたってだけで、ちょっと救われた気がした。
「この世界、行ってみてぇな……」
憧れだった。
間違いなく、これは憧れだった。
そしたらさ――本が、光り出した。
「……え?」
いやいや、待て待て。SFかファンタジーか知らんけど、物理的に本が発光するってどんな状況だよ。
と思った矢先、俺の身体が粒子になった。
マジで。
バチバチバチッ……と音がして、指先から肩へ、肩から胴体へと、光の粒になって崩れていく。
「は? ちょ、え? まっ、まってまってまって!!」
やばいやばい、ガチじゃん、ガチ転生系じゃんこれ。
そして俺の脳内に浮かんできたのは――
「いや!! 俺が太ってるからといっても魔人ブウちゃうねん!!
やっとわかったぜ、お前の片付け方が! ……ってか??」
なんでこのタイミングでドラゴンボールの感動シーンが浮かぶんだよ、俺。
ああ、そうか。
この前、好きなVTuberが配信でやってたな……「ブウ編、マジで泣けるぅ〜」って。
それか、子供の頃の記憶か。
どっちにせよ、家族とか、現実とか、未練とか、一切浮かんでこなかった俺って、どうなん?
でも――少なくとも俺は、そんな自分のことを、ちょっとだけ気に入ってる。
この男とてつもなくつまらない。…ただ僕個人的には少し面白いと思うよ。そのボケ?ツッコミ?
そして、光は完全に包み込んだ。
世界が反転し、重力がなくなり、視界が真っ白になる。