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朽ちぬ女王  作者: 水無適
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「戴冠式を行おうと思います」

お嬢様のひと言に、場が凍りついた。


カトリーヌ伯爵が即座に口を開く。

「その言葉は、非常に重い。もし実行すれば、現王家との対立は避けられません」


「承知の上です。このまま隠れて過ごしていても、何も生まれません」

お嬢様は、あくまで静かに返す。


「……分かりました。戴冠式を行いましょう。異論は?」

広間に沈黙が落ちる。誰も声を上げられない。反対の意思を呑み込んだ沈黙――それこそが承認の証。


ああ、お嬢様はまた戻れない道を選ばれた……けれど、いいのです。私たちはついてゆきます。どこまでも。


「では、戴冠式はいつに?」

「近日中に」

「ですが、準備には三か月は必要です」

「最短でお願い」


やがて、ミネルバ侯爵夫人が立ち上がった。

「衣装は私が手配いたします」

その声は冷たく澄んで、余計な飾りを許さない。きりりと結んだ髪、簡素ながら上質な衣。彼女が言えば、それで全てが整う気さえした。


「殿方の趣味は――時に独特ですから」

カトリーヌに目をやり、会場に小さな笑いが走る。

カトリーヌは恥ずかしかったのか、少し俯いた。


ありがたい!伯爵様の服のセンスは……天災級でしたから! ミネルバ様、感謝してもしきれません!


「では、元旦に行いましょう。新しい王の誕生にふさわしい日です」

その言葉で決定が下され、旧王家の家門たちは一斉に動き出した。



会議後、静まり返った部屋に残されたお嬢様と私たち。

「……聞いていたわね?」

「もちろんです。即位の道筋が立ちましたね」


お嬢様は遠い目をして答える。

「戴冠式が終われば、神殿に私の名が刻まれる。失ったものを取り戻すのも、遅くはないわ」


その瞳は燃えるように強く――けれど私たちには、ただひたすらに愛おしい。


お嬢様、ああ、なんと麗しい……! 決意でさえ宝石のように輝いていらっしゃる!

本当に……世界で一番可愛くて、強くて、私たちの自慢のお嬢様です!


そのとき、足音が近づいた。

リサが戻ってきたのだ。私たちはすっと姿を消す。


「お嬢様〜」

「リサ!」

「無事に終わりましたか?」

「ええ。戴冠式の日取りも決まったわ。詳しくは大人たちが進めるみたい」

「……よかったです!」


リサのくすんだ赤髪が揺れ、柔らかい笑顔が広がる。



夜。寝る前のひととき。

「お嬢様の御髪は本当に綺麗ですね。私の髪なんて錆びた鉄みたいで……」

「そうかしら。私はリサの髪、好きよ。落ち着いた、綺麗な赤だもの」


「……嬉しいです」

リサはふにゃりと笑った。


「では、おやすみなさい」

「ええ、また明日」


リサが部屋を出ていく。

「お前たちも休みなさい」

「承知しました」


半数を残して、私たちは眠りにつく。

けれど胸の奥は満ち足りていた。


今日もお嬢様は世界で一番尊い……明日も、その次も、ずっと私たちのお嬢様です!


だけど――警戒を緩めてはなりません。

いつ牙が突き立てられるか分からないのですから。

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