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朽ちぬ女王  作者: 水無適
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8

今日は伯爵邸に来てしばらく。お嬢様の精神も落ち着いたとのことで、お披露目会が開かれることになった。


「ねえ、リサ。私、変じゃない?」

「変じゃないですよ!王国一、いえ、世界一可愛いです!」


……リサばかり贔屓されて、私たちは少し寂しい。拗ねちゃいますよ?拗ねますからね!

けれど今日のお嬢様は本当に眩しかった。

陽光を纏ったような金の御髪、エメラルドの瞳は宝石よりも澄み、青の衣が気品を際立たせている。


集まるのは旧王家に忠誠を誓い続けている家門ばかり。これはただの披露ではなく、戴冠式の前哨戦だ。次に彼女が人々の前に立つときは、もっと豪奢な衣を纏っているだろう。



ホールの扉が開いた瞬間、ざわめきが爆ぜ、視線が一斉にお嬢様へ注がれる。

「リサ、緊張するわ。伯爵と一緒だと思ったのに、一人だなんて」

「お嬢様なら大丈夫です。誰もがその美しさに心を奪われます」


お嬢様は深呼吸を二度。光の中に一歩を踏み出すと、歓声が波のように押し寄せた。

階段を降りる姿は絵画そのもの。人々は息を呑み、口々に称賛を漏らす。


その後、臣下たちと談話を交わしたお嬢様は、疲れを癒すようにベランダへ出た。

「お嬢様、失礼ですが少し席を外しても?」

「どうしたの、リサ。……ええ、大丈夫よ。いってらっしゃい」

リサは足早に去っていく。


「ちょうどよかったわ。お前たちと話したかったの」

「お呼びでしょうか、お嬢様」


私たちは姿を現し、跪いた。

「……九。三人足りないわね」

「呼びましょうか?」

「いいわ」


お嬢様はふっと微笑んでから、真剣な眼差しに変える。

「まだ旧王家の血筋だなんて戸惑うけれど、そのおかげで復讐の先頭に立てる。これからどう動くのか、あなたたちとも話しておきたいの。このあと会合があるからその話をきちんと聞いておいてね」


復讐――その言葉に胸がざらつく。

玉座に返り咲く姿を見届けたい気持ちと、憎悪に囚われる主を見る苦さ。矛盾が私たちを締め付ける。

どうしようもないのに、なぜこんなに虚しいのだろう。



一方その頃、暗闇に二つの人影。

「……報告は以上です」

一方が跪き、淡々と告げる。


「ご苦労だった。続きはまた次に聞こう」

低い声が闇に溶ける。


影の一つが立ち去ろうとした、その時。

かすかな灯りが差し込み、もう一方の髪に鈍い赤がにじむ。

燃えるような輝きではない。錆びついた鉄のような、乾ききった血のような――どこか翳りを帯びた赤だった。


「……では、失礼します」

小さな足音が遠ざかり、闇は再び沈黙を取り戻した。



「リサ、おかえり」

「ただいま戻りました」

「このあと、例の方々と打ち合わせがあるから、また後でね」

「頑張ってください。その前に御髪を整えましょう」

「ありがとう」


整えられた金の髪が月明かりに揺れる。

「完璧です!では、いってらっしゃいませ」

「ええ。行ってくるわ」


お嬢様は振り返らず、打ち合わせ室へと歩んでいった。

背に流れる冷たい決意を、私たちはただ見送るしかなかった。

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