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今日は伯爵邸に来てしばらく。お嬢様の精神も落ち着いたとのことで、お披露目会が開かれることになった。
「ねえ、リサ。私、変じゃない?」
「変じゃないですよ!王国一、いえ、世界一可愛いです!」
……リサばかり贔屓されて、私たちは少し寂しい。拗ねちゃいますよ?拗ねますからね!
けれど今日のお嬢様は本当に眩しかった。
陽光を纏ったような金の御髪、エメラルドの瞳は宝石よりも澄み、青の衣が気品を際立たせている。
集まるのは旧王家に忠誠を誓い続けている家門ばかり。これはただの披露ではなく、戴冠式の前哨戦だ。次に彼女が人々の前に立つときは、もっと豪奢な衣を纏っているだろう。
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ホールの扉が開いた瞬間、ざわめきが爆ぜ、視線が一斉にお嬢様へ注がれる。
「リサ、緊張するわ。伯爵と一緒だと思ったのに、一人だなんて」
「お嬢様なら大丈夫です。誰もがその美しさに心を奪われます」
お嬢様は深呼吸を二度。光の中に一歩を踏み出すと、歓声が波のように押し寄せた。
階段を降りる姿は絵画そのもの。人々は息を呑み、口々に称賛を漏らす。
その後、臣下たちと談話を交わしたお嬢様は、疲れを癒すようにベランダへ出た。
「お嬢様、失礼ですが少し席を外しても?」
「どうしたの、リサ。……ええ、大丈夫よ。いってらっしゃい」
リサは足早に去っていく。
「ちょうどよかったわ。お前たちと話したかったの」
「お呼びでしょうか、お嬢様」
私たちは姿を現し、跪いた。
「……九。三人足りないわね」
「呼びましょうか?」
「いいわ」
お嬢様はふっと微笑んでから、真剣な眼差しに変える。
「まだ旧王家の血筋だなんて戸惑うけれど、そのおかげで復讐の先頭に立てる。これからどう動くのか、あなたたちとも話しておきたいの。このあと会合があるからその話をきちんと聞いておいてね」
復讐――その言葉に胸がざらつく。
玉座に返り咲く姿を見届けたい気持ちと、憎悪に囚われる主を見る苦さ。矛盾が私たちを締め付ける。
どうしようもないのに、なぜこんなに虚しいのだろう。
*
一方その頃、暗闇に二つの人影。
「……報告は以上です」
一方が跪き、淡々と告げる。
「ご苦労だった。続きはまた次に聞こう」
低い声が闇に溶ける。
影の一つが立ち去ろうとした、その時。
かすかな灯りが差し込み、もう一方の髪に鈍い赤がにじむ。
燃えるような輝きではない。錆びついた鉄のような、乾ききった血のような――どこか翳りを帯びた赤だった。
「……では、失礼します」
小さな足音が遠ざかり、闇は再び沈黙を取り戻した。
*
「リサ、おかえり」
「ただいま戻りました」
「このあと、例の方々と打ち合わせがあるから、また後でね」
「頑張ってください。その前に御髪を整えましょう」
「ありがとう」
整えられた金の髪が月明かりに揺れる。
「完璧です!では、いってらっしゃいませ」
「ええ。行ってくるわ」
お嬢様は振り返らず、打ち合わせ室へと歩んでいった。
背に流れる冷たい決意を、私たちはただ見送るしかなかった。




