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二度目の訪問は驚くほどすんなりと進んだ。
これといった対価を求められなかったのは、同盟を結んだ後だからでしょうか。
「お久しぶりです、オズワルド王」
「久しいな。で、何の用だ?」
社交辞令というものを一切感じさせない、あまりにも真っ直ぐな言葉。
それに対し、お嬢様は思わず破顔した。
「解毒をお願いしたいのです」
「ほう……あの騎士か?」
「ええ。治りますか?」
「うーん。解毒自体は問題ない。だがな、精神面の方がかなり深刻だ。こういうものを治す方法は、まだ見つかっていない」
「……」
「一つ、強引な手段はあるが……おすすめはしない」
「一応、聞いておきます」
「記憶を消す」
「……範囲は決められるのですか?」
「いや。すべての記憶が消える」
「論外です。解毒だけお願いできますか?」
「ちょっと見せてみろ」
横たわるギルの容態を診始める。
「ああ……ここに来るまで解毒をしなかったのは正解だな」
「どういうことですか?」
「この毒は麻痺毒だ。神経を麻痺させることで、こいつはギリギリ精神を保っていられる。外からの刺激が減った分、精神の修復に自分の力を使えている」
「では、下手に解毒できないということですか?」
「そういうことだ。解毒は必要だが、代わりとなる麻酔成分を持つ薬が要る。……あったかどうか」
「無いのなら採ってきます」
「そう言うと思った。だが今日は休め」
「まだ昼です」
オズワルド王はお嬢様をしばらく見つめてから言った。
「少し話そうか」
「何をです?」
「おい。あいつらを部屋に案内しろ」
オズワルド王が手を叩くと、侍従が現れ、私たちはそれぞれ客間へと案内された。
*
「こういう話は、一対一の方がいいと思ってな」
「話とは?」
カーテンの隙間から、昼の穏やかな光が差し込んでいる。
「お前さん、自分が今どんな状態かわかっていないだろう」
「以前負った傷は治っていますし、問題なく動けていますが」
「体の話じゃない。心の方だ」
「……」
「前から危うさはあったが、今はそれが確実になっている。碌に休みも取れていないんだろう。今は大丈夫でも、心が壊れたら次に壊れるのは体だ」
「……」
「何かを失ったのか? 何があった?」
「あなたには関係のない話です」
「いや、関係ある」
「関係ないです!」
彼女が声を荒げたのを見たのはこれが最初で最後だった。
「それより、カリンとお話ししては? 大切な姪でしょう」
彼女が部屋を出ていく背中を、なぜもっと強く引き止められなかったのだろう。
引き止めて、話を聞くだけでもしていれば、何かが変わっていたのだろうか。
だが俺には、その言葉も資格もなかった。
今となっては、何もかもが遅すぎる。
俺はもう彼女の手をとれる場所にいないのだから。




