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「……クソッ。殺せと言われた連中には逃げられるし、私兵は壊滅。つくづくついていない」
夜の闇に紛れるように、ルヴェイン子爵は騎士を引き連れて屋敷を離れていた。
その進路を塞ぐように、一人の少年が立っている。
「こんばんは、ルヴェイン子爵。いい夜だね」
「誰だ!」
「俺はネレウス。まあ、覚える必要はないよ。あんたにとっては最後だから」
「何をしている!殺せ!」
騎士たちは命令に従い、一斉に少年へと襲いかかった。
剣が振るわれ、拳が叩き込まれる。少年は抵抗する様子もなく、斬られ、殴られ、地面に叩き伏せられた。
関節は不自然な方向へ折れ曲がり、明らかに生きていられる状態ではない。
「……話をしよう、子爵」
少年は、ゆっくりと起き上がった。
(なぜ動ける……? 全身の骨を折ったはずだ……!)
次の瞬間、地面を蹴る音が響いた。
圧倒的な力で、騎士たちは次々となぎ倒されていく。
気づけば、その場に立っているのはルヴェイン子爵ただ一人だった。
「……悪魔だ……」
暗闇の中、少年の瞳が海のような青に光る。
「旧王家について知っていることを吐け」
「知らん!本当に何も知らない!」
「残念だな」
「待て!金か!?金ならいくらでも出す!だから――」
「逆に聞こう。君は、何を持っている?」
「アルスの新兵器の情報もある!ノクスヴェルク公爵家だって――」
「そのノクスヴェルク公爵家が、今回の依頼主だ」
銃口が眉間に押し当てられる。
「おめでとう。あんたの役目は終わりだ」
「待て――!」
引き金が引かれた。
一度、二度、三度。
そして、息絶えた後も。
銃弾が肉体にめり込み、僅かに体が動いていくのを見続けた。
「……そうだった。燃やせって言われてたんだっけ」
少年は子爵と騎士たちの遺体を屋敷に集め、火を放った。
「まずは一人」
ブレスレットに、そっと額を寄せる。
それは、かつてフロリスが身につけていた髪紐だった。
*
「……!カリスタ様!」
聖国に戻った私たちを出迎えたのは、教皇だった。
自国で他国の王が攫われたのだ。無理もない。
「ご無事で……本当に良かった……」
エリンが駆け寄ってくる。
その瞬間、お嬢様の身体が強くこわばった。
「エリン様。それ以上、近づかないでください」
「……え?」
「教皇のもとへお戻りください」
私たちは、お嬢様をそっと地面に下ろす。
「今回の件は、我が国の落ち度だ。できる限りの協力を約束しよう」
「……では」
静かな声で、お嬢様は言った。
「薬物に詳しい者を、紹介してください」




