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本話には、過去の搾取やトラウマを想起させる心理描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
「あなたは……リサを殺した人ね」
「リサ? 誰のことだ?」
「あなたが戴冠式で殺した、赤髪の女よ」
「ルビギナのことか」
「覚えていたのね」
「そんな話は置いておいて、今、何があった?」
人を殺したことを“そんな話”で済ませるなんて……。
「……あなたに答える義務はないわ」
「フロリスは、あんたのことをそれなりに嫌っていたよ」
「……そう。嫌っていてくれたのね。
優しいから、きっと赦してしまっているのかと思っていたわ」
「あんたが、自分の過去を知る人間だって言ってた」
「……聞きたいことは何?」
「何があったのか。フロリスが死ぬきっかけを知りたい」
「……話の途中で、私を殺さないと約束できる?」
「ああ」
彼は、この約束を破らない。
そう思った。
「彼と、二人きりにして」
「!? お嬢様?」
「今回は譲れないわ。いいから従いなさい」
*
「まず、あなたは私の過去について、どこまで知っているの?」
「フロリスと同じ組織にいた、ってことだけだ」
「なんだ、何も知らないのね」
「あんたのことを知りたいわけじゃない」
「話が複雑なの。結果的に、私の話をする必要があるだけよ。そうでなければ話さないわ。
この話をするのも、あなたが初めて」
「わかった」
「いい子ね。
まず、私とフロリスが出会ったのは、組織の宿だったわ。
私たちは“商品”だった。私は新入り、彼は先輩」
「商品? 何を売っていたんだ?」
「決まっているでしょう?身体よ、身体。
……話を戻すわね。
私たちは容姿が良いから、組織の上層部と関わりの深い貴族の相手をすることが多かった。
私はすぐに売れたから、穢されることはなかったけれど……彼は違った」
彼女は一瞬、言葉を選ぶように息を置いた。
「特に多く、私たちの一晩を買っていたのが――ルヴェイン子爵。
あそこにいる剣士の父よ」
名前を口にするだけで、彼女の声が僅かに震えた。
「多分、彼は戦闘中にフラッシュバックを起こしたの。
私ですら、名前を聞くだけで震えが止まらない。
彼は……それどころじゃなかったでしょうね」
「フロリスの過去が、あいつから生きる気力を奪った……?」
「……恐らくは」
「なんてことを……」
「この話、誰にも漏らさないで。
私だけじゃない。彼の名誉のためにも」
「わかってる。……そんな話をさせて、悪かった」
「いいのよ。あなたは、彼を救ったのでしょう?」
「どうだろうな」
座っていた彼女を立たせ、そしてあの剣士に告げた。
「あんたは、親諸共俺が殺す」
「……わかった。覚悟して待っている」
俺は動かなくなったフロリスを抱き、静かにその場を去った。




