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勝てないとわかっているのに戦わなければいけないなんて、酷なこともあるものですね。
殿下を守りながらの斬り合いになるから、余計に難易度が高い。
ピタリと、相手の攻撃が止んだ。
その瞬間、お嬢様の思考が流れ込んできた。
(駄目、駄目!!!!!)
悲痛な叫びにも似たそれに、思わず体が反応していた。
ふと目を向けると、トカゲの首をめがけてギルが大きく振りかぶっていた。
「フロリス!」
悪魔は私たちをそっちのけにして、助けに向かっていた。
――が、遅かった。
血飛沫が上がる。
鈍い音を立てて剣が刺さり、首を貫通する。
まずい。
お嬢様の顔に血がかかる。
防がなければ……!
急ぎ、お嬢様を血から守る。
「ギルバード!!!」
「はい!」
「周りを見て行動しなさい」
「すみませんでした」
お嬢様の顔を見ると、すでに皮膚は溶けていた。
「守りきれず、申し訳ございませんでした」
「今すぐ……今すぐに洗い流したいわ」
「かしこまりました」
私たちは水魔法で、お嬢様の顔を洗い始める。
焼け爛れた皮膚は、水とともに流れ落ちていった。
痛ましかった顔は、さらに痛ましいものへと変わっていた。
*
「フロリス!」
「……」
「フロリス! 飲んで……飲んでってば……」
フロリスから、生きたいという願いが感じられない。
この短時間で、何が起きたというのだろう。
あの剣士と魔法士程度には負けない実力を、確かに持っていたはずだ。
生きる気力すら奪う何かが、あったというのか?
血を飲まないのはまずい。
このままでは、死んでしまう。
「ネレウス……」
意識はある。
まだ、助かる。
「いいから、飲んで!」
「あの時……見つけてくれて、ありがとう……」
真っ直ぐだった瞳は伏せられ、
温かかった眼差しは、暗く、冷たくなっていた。
なぜフロリスは死を選んだ?
問いたださなければならない。
大丈夫、全員がかかってきても生き残ることはできるはずだ。
「カリスタ様……?」
「ギルバード・ド・ルヴェイン」
「は、はい!」
「……私の名前を呼ばないで」
フロリスを殺した剣士の顔が、絶望に包まれた。
「陛下のご尊顔を傷つけてしまい、申し訳ございませんでした」
「そのことは別にいいの……
でも、あなたがルヴェインの血筋である限り、
私は……私たちは、あなたを許すことはないわ」
そう話す彼女の体は震えている。
「その話、俺も気になるんだけど?」
死んだものは、しょうがない。
だけど、死んだきっかけくらいは知りたい。




