51
ギルはフロリスの血に一瞬触れたきり、動かなくなった。
そして、フロリスは着実にこちらへと近づいてきている。
「カリスタ様、お下がりください」
「ええ」
短い詠唱の後、今度はカリンとの攻防が始まる。
剣を使うギルと違い、接近する必要のないカリンは一見有利なように見えた。
しかし、カリンは近接戦闘を得意としていない。
フロリスの蹴りで、バリアごと吹き飛ばされてしまった。
それと同時に、私を守っていたバリアも消えた。
「もう一度聞きます。虹の同盟をやめませんか?」
苦しそうに問いかける彼に、私は首を横に振った。
「できないわ。あと一国のところまで来ているの。それに、あなたはアルスが彼を使って何をしようとしているのか、わかっているの?」
「……わかっていますよ」
「わかった上で止めなかったの?」
「生き残るためですから」
「悪魔の復活が成功してしまえば、それこそ世界だって滅びかねないのよ?」
「わかっています。世界を救う人はたくさんいます。
だけど、今の自分を救えるのは、自分自身の決定だけ。
選択は後悔していません。それを選んでいなければ、死んでいましたから」
「……どうしても私たちを止めなければいけないの?
裏切って、こちらには来られないの?」
「すみません。今の組織には、拾われた恩があります」
「そう」
気配を消していたギルが背後からフロリスの首をめがけて剣を振り下ろした。
私の顔にフロリスの血がかかる。
肉を溶かしていく感覚が、はっきりとわかった。
熱い。痛い。
今すぐ洗い流したい。
けれど流せば、皮膚ごと剥がれてしまう気がした。
「直前まで気づきませんでした! 気配を隠すのが上手いですね!」
フロリスは楽しそうに笑う。
「普通、今のは避けられないよ」
ギルも困ったように笑った。
「あなた、お名前は何というのですか?」
「ギルバード。ギルバード・ド・ルヴェイン」
「「……え」」
私とフロリスの声が重なり、その後に沈黙が走る。
フロリスの息が荒くなっていく。
尋常ではない汗の量。
立っているのがやっと、というようなふらつき。
ギルは、フロリスの首を正確に狙っていた。




