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本話には、
人身売買や搾取を想起させる描写、
未成年の視点による重い心理描写が含まれます。
苦手な方は閲覧をお控えください。
私たちはただの商品だ。
感情を持つなんて苦しくなるだけ。
趣味の拗れた貴族の相手をするだけ。
私は小さい頃に組織に拐われてそれ以降ずっとこれ。
まあもっとも、ここにいる奴らみんなそんな感じだろうけど。
アルビノの私は希少価値が高いみたいで特に身分の高い貴族か、組織に深い関わりがあるひとたちのもとへしか行かなかった。
場所によってはアルビノはそれだけで忌避される存在だ。五体満足で生きていけるのなんてほんの少ししかいない。
私は五体満足で生きている上に視力も良い。更に価値が上がるというものだ。
あの日もそうだった。
部屋にはたくさんの子どもたち。顔の整った子どもたちがたくさん使い捨てにされていた中、私はデザートのような立ち位置にいた。追加で多くの子どもたちが連れてこられ、その中にあなたはいた。
汚いおっさんの下敷きになりながらも思わず見つめてしまった。
なんて美しい人なんだろうって。
ここに似つかわしくない意志の強い緑の瞳、柔らかな金髪は協会で見た女神像そのものだった。
それと同時にそんなやつここに必要ないとも思った。
さっさと汚れてしまえばいいとも思った。
でも、それ以上彼女に意識を向けるほど余裕もなかった。
首を絞められたんだ。
この貴族は首を絞めてするのがお気に入りみたいで、失敗したのか落ちている子どもの何人かは息絶えていた。
苦しい、痛い…怖い。
太ももになにかが伝う。血なのかはたまた別のものなのかそれはわからないけど。
組織が用意した部屋にはカメラがついている。
それで見られているのも嫌だった。音もする。
ジーッて。
いくら特別だからといって殺されないわけじゃない。
気が狂って舌を噛みちぎって死んだ奴もいた。そのせいで私たちは四六時中カメラで監視されるようになった。
ようやく私に飽きたのか貴族が私から手を離し、そして金髪の彼女に触れた。
「触らないでっ!」
「おや?教育不足ではないのかね?まあ、その美しさに免じて私が直接教えを説いてあげようではないか」
「離してっ…」
彼女が無駄な抵抗をしている間私は貴族の隣で横になっていた。
もう自分の役目なんて終わったと思っていたから。
「白銀もいることだし、同時に可愛がってやろう」
まだやる気かよ…なんて言葉は出ず、貴族は私にも手を伸ばしてきた。そして躊躇なく私の体を汚す。
その姿を間近で、驚きの表情を浮かべながら見られるのは実に不愉快だった。
夜が明けた。
彼女は汚されることはなく、客は帰った。
「あなた名前はなんていうの?顔が真っ青…」
「…あんたに関係ないだろ」
髪に触れようとしてきた手を払う。
「じゃあノエルって呼ぶ」
「はあ?勝手に名前つけんなよ」
「じゃあなんて呼んでほしいの?」
「…それでいいよ、女神様」
「女神様って呼ばないで」
「じゃあお姫様?」
「……それなら、いいけど」
それからしばらくしてお姫様は無傷のまま、ある貴族に売られていった。私はその後逃げ出した。
見つかったら殺される。そんなことはわかりきっていたけれど、少しの希望くらい見てみたくなったんだ。
眩しすぎるお姫様が近くにいたから、こっちも希望を持ってしまったんだ。
だから憎むよお姫様。
あなたが希望なんか持たせたせいでこんなにも苦しいんだから。




