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カトリーヌ伯爵邸。
お嬢様に与えられた部屋は、壁を彩る織物も、重厚な家具も、まるで見せつけるように豪華で、息を呑むほどの空間だった。
だが今、その部屋には豪奢さなど吹き飛ぶほどの緊張が漂っている。
原因はもちろん――お嬢様だ。
「……貴方たち、何勝手なことをしているの?」
「す、すみません……」
私たちは頭を垂れた。
当然である。お嬢様の人生を、独断で決めてしまったのだから。
*
昨夜のこと。
お嬢様が押し込められていた、物置同然の部屋。壁はひび割れ、湿気に満ち、扉は長年の歪みで立て付けも悪い。
その扉が、勢いよく蹴破られるように開かれ、ついに音を立てて壊れた。
現れたのは――お嬢様の姉。
「ったく!どういうことよ!!」
私たちは慌ててお嬢様の前に出る。
「だ、誰よあなたたち!私の邪魔をしないで!」
「私たちはお嬢様をお守りする役目ですので」
姉はあざ笑うように顎を上げた。
「これが“お嬢様”? 冗談もほどほどにしなさい。穢れているくせに!」
「……お姉さま、どうしてこちらに?」
「いつ私を“姉”と呼んでいいと許可したのかしら!?」
その手が振り上げられたが、結局は躊躇して降ろされた。
「お母様とお父様が捕らえられているのよ!どうせあなたのせいでしょう!?」
「……そうなんですか」
お嬢様は目を丸くする。
知らせていなかったのは確かだ。
「白々しい!家畜以下の分際で、私たちの慈悲で生きていることに感謝もできないの!? 恩を仇で返すなんて!」
……ああ、この女。自分の立場がわかっていない。
「お黙りなさい。たかが男爵令嬢の分際で、お嬢様にそのような口を利けると思って?」
私たちの一人が冷たく言い放つ。
「はあ?当然でしょ。これは私の玩具よ。どう扱おうが私の勝手!」
「いいえ。王宮からの通達がありました。お嬢様は正式にカトリーヌ伯爵の娘となられると」
「……はぁっ!?」
姉妹が揃って声を上げた。実に珍しい光景である。
お嬢様は短く息を吐き、抑えた声で言う。
「話は後で聞くわ」
その瞳には怒りと困惑が入り混じり、私たちは思わずたじろいだ。
まもなく王家の使者が現れ、姉は連れ去られた。お嬢様はそのまま――カトリーヌ伯爵のもとへ。
*
そして今。
豪華な部屋で、私たちはお嬢様の怒気を正面から浴びている。
「ちゃんと説明をしなさい」
「そ、その……お嬢様がこのままでは命を落とすと判断し、カトリーヌ伯爵にご助力を……」
目を逸らしながら答える。
「私の道は、私が決めるわ」
その強い瞳に、背筋が震える。従うべきは彼女の意志だ。
「詳しいことは伯爵に……」
「そこまで首を突っ込んだなら、最後まで責任を持ちなさい」
「……申し訳ございません」
お嬢様はふうとため息をつき、肩を落とした。
「……もう起こってしまったことだから、仕方ないわね」
そしていつもの調子で言う。
「お茶が飲みたいわ」
「かしこまりました」
こうして、お嬢様の境遇は劇的に変わった。
悲惨な小部屋から、誰もが羨む伯爵邸へ――
もっとも、その怒りを買った私たちには、まだ胃の痛い日々が続きそうだが。




