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朽ちぬ女王  作者: 水無適
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5

カトリーヌ伯爵邸。

お嬢様に与えられた部屋は、壁を彩る織物も、重厚な家具も、まるで見せつけるように豪華で、息を呑むほどの空間だった。


だが今、その部屋には豪奢さなど吹き飛ぶほどの緊張が漂っている。

原因はもちろん――お嬢様だ。


「……貴方たち、何勝手なことをしているの?」

「す、すみません……」


私たちは頭を垂れた。

当然である。お嬢様の人生を、独断で決めてしまったのだから。



昨夜のこと。

お嬢様が押し込められていた、物置同然の部屋。壁はひび割れ、湿気に満ち、扉は長年の歪みで立て付けも悪い。


その扉が、勢いよく蹴破られるように開かれ、ついに音を立てて壊れた。

現れたのは――お嬢様の姉。


「ったく!どういうことよ!!」


私たちは慌ててお嬢様の前に出る。


「だ、誰よあなたたち!私の邪魔をしないで!」

「私たちはお嬢様をお守りする役目ですので」


姉はあざ笑うように顎を上げた。

「これが“お嬢様”? 冗談もほどほどにしなさい。穢れているくせに!」


「……お姉さま、どうしてこちらに?」

「いつ私を“姉”と呼んでいいと許可したのかしら!?」


その手が振り上げられたが、結局は躊躇して降ろされた。


「お母様とお父様が捕らえられているのよ!どうせあなたのせいでしょう!?」

「……そうなんですか」


お嬢様は目を丸くする。

知らせていなかったのは確かだ。


「白々しい!家畜以下の分際で、私たちの慈悲で生きていることに感謝もできないの!? 恩を仇で返すなんて!」


……ああ、この女。自分の立場がわかっていない。


「お黙りなさい。たかが男爵令嬢の分際で、お嬢様にそのような口を利けると思って?」

私たちの一人が冷たく言い放つ。


「はあ?当然でしょ。これは私の玩具よ。どう扱おうが私の勝手!」


「いいえ。王宮からの通達がありました。お嬢様は正式にカトリーヌ伯爵の娘となられると」


「……はぁっ!?」


姉妹が揃って声を上げた。実に珍しい光景である。


お嬢様は短く息を吐き、抑えた声で言う。

「話は後で聞くわ」


その瞳には怒りと困惑が入り混じり、私たちは思わずたじろいだ。


まもなく王家の使者が現れ、姉は連れ去られた。お嬢様はそのまま――カトリーヌ伯爵のもとへ。



そして今。

豪華な部屋で、私たちはお嬢様の怒気を正面から浴びている。


「ちゃんと説明をしなさい」

「そ、その……お嬢様がこのままでは命を落とすと判断し、カトリーヌ伯爵にご助力を……」

目を逸らしながら答える。


「私の道は、私が決めるわ」


その強い瞳に、背筋が震える。従うべきは彼女の意志だ。


「詳しいことは伯爵に……」

「そこまで首を突っ込んだなら、最後まで責任を持ちなさい」

「……申し訳ございません」


お嬢様はふうとため息をつき、肩を落とした。

「……もう起こってしまったことだから、仕方ないわね」

そしていつもの調子で言う。

「お茶が飲みたいわ」

「かしこまりました」


こうして、お嬢様の境遇は劇的に変わった。

悲惨な小部屋から、誰もが羨む伯爵邸へ――

もっとも、その怒りを買った私たちには、まだ胃の痛い日々が続きそうだが。

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