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朽ちぬ女王  作者: 水無適
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「お久しぶりですね。トカゲの方は大きくなっていましたが、あなたは小さいままですか」


「そういうあんたは、性質が変わったみたいだね」


「おや、わかるのですね」


「残念なことに、前より鮮明にね」


「ん? あなた……歪なものが混じって……っ、違う!」


視界をじわじわと黒く埋めていくそれに、思わず距離を取る。


「もうじき、同化する……」


「なんなんだよ……こいつ」


「殿下、ご無事ですか?」


「ああ……だが、あれはなんだ? 悪夢そのものみたいだ」


「私も初めて遭遇します。というより、会った時点で生きて帰れない存在なだけです」


「なんなんだよ……そんな出鱈目なやつ、いてたまるか」


「それが、悪魔というものです」


正直、私たちだけで殿下を守りながら耐えきれるかどうかも怪しい。

成りかけとはいえ悪魔。しかも素体の質が、あまりにも高すぎる。

生き残れればいいのですが。


「へぇ……もう気づいたんだ」


「伊達に長生きしていませんので」


「いつからそんな姿になったの? 元から?」


「そうですね……どれほど前でしょうか。私たちが生きていた頃、悪魔の存在は身近だったんですよ。そのくらい前、ということです」


「その頃から、こんな悪趣味な禁術があったんだ」


「今日は私たちとお喋りしてくれるんですか? お嬢様の戴冠式の時は、何一つ話さなかったのに」


「……確かに。なんでだろう」


言葉を交わしながらも、攻防は途切れない。

負っている傷は、明らかにこちらのほうが多い。


一度退くべきか――そう考える余裕すらない。


容赦なく降り注ぐ攻撃を、紙一重で躱し続ける。


これでは分裂したところで意味をなさないどころか、不利にすらなりかねない。


「さて……どうしましょう」



彼は周囲のものを腐敗させながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。


「ノエル……」


懐かしい記憶の名を、口にした。


「その名前はもう捨てました。姫様、フロリスと呼んでください」


「わかった。フロリス」


これはどちらかが死ぬまで続く戦い。

それと同時に死を迎える前の走馬灯のようだった。

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