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朽ちぬ女王  作者: 水無適
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「久しぶりに会えたのはいいけど、今日は夜に仕事があるから」


「まだああいうのやってるの?」


「いや。今回は違うよ。……でも…」


「でも?」


「なんでもない、行ってくるね」


ドアを閉め、整えた服に身を包んで貴族の屋敷へ向かう。


「久しぶりだね、白銀の君」


「ご無沙汰しております、ルヴェイン子爵」


―――


(……吐き気がする)


違う要件だと言われていたはずなのに、相手が同じ人間である以上、結局こうなる。


月の光も届かない夜道を、一人、足取りも覚束なく歩く。


「ただいま」


「……違うって言ったじゃないか」


「予定にない人が来ていてね」


「まずは手当が先だ。風呂に入ってきな」


「……うん」


湯から上がり、ネレウスに手当をされる。


「首にも痕が……これは、煙草か」


ネレウスは言葉を切り、真剣な顔でこちらを見た。


「もう……こんなことはしないって、約束できない?」


「私だって、できるならそうしたいよ」


(でも無理なんだ。目の前に立たれると、あのときの事が一気に押し寄せて、逆らう気力すら失くなる)


「……寒い」


そう言って、ネレウスは私の布団に潜り込んできた。


「ほんとだ……寒いね」


真夏の夜。

互いの体温だけを頼りに、黙って身を寄せ合った。



翌日、呼び出しがかかった。

ネレウスと共に向かうと、そこには組織の上層部が揃っていた。


「旧王家が“虹の同盟”を締結しようとしている」


「……あの御伽話の?」


「成立すれば、非常に厄介だ」


「止めろ、ということですね」


「次の目的地は?」


「紫の国。これが最後の一国だ」


「随分と急ですね」


「余計なことは考えるな。仕事をこなせ」


「了解」


部屋に戻り、出立の準備を始める。


「明日には出たい」


「うん」


「三時間経ったら起こして」


糸が切れたように、意識が落ちた。



「三時間経ったよ」


「……ん」


「起きろ」


「もうちょっと……」


「ダメだ。任務だろ」


「……わかった」


「はぁ……」


「ちょ、急に水かけないで!」


「起きない方が悪い。ほら、行くぞ」


「……うん」


風魔法で髪を乾かし、黒の仕事着に着替える。

資金や装備はすでに用意されており、出発は滞りなく進んだ。


(……それだけ切羽詰まってるってことか。でも今は、ネレウスと一緒にいられる。それだけでいい)


「何ぼーっとしてる。まだ眠い?」


水を生み出すネレウスを慌てて止める。


「いや、平気」


「ならいい」


「……また、あの子に会うのか」


「“あの子”?」


「お姫様」


「嫌なのか?」


「私の過去を知ってるから、かな」


「……なるほど。殺しにくいわけだ」


「仕事だから全力は尽くすよ。それに……あの子も、私を簡単には殺せない」


「そうだといいけど。はい、目標の情報」


「ありがとう」


「侍女、護衛騎士、魔法使い、体術使い。計五名で行動。か」


「……あの化け物がいるなら、まずはそこを潰さないと」


「侍女の立場なら、姫の側からは離れないだろうね」


「厄介な任務になりそうだ」

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