40
バチン、とビンタの音が響く。
思わず目を見開き、その光景を私たちは見ることしかできなかった。
「なんでっ…なんで!!!」
「…申し訳ありません」
「なんで!!! あんたが謝るのよ!」
ついに女から涙が溢れ、カリンにすがりつく。
「すぐに帰ってきてよお…」
しゃくりあげながら泣きじゃくる彼女を止める者はいない。
彼女の護衛騎士ですら、遠くから見ているだけだった。
「…っ、おかえり」
「ただいま帰りました」
落ち着いたのか、彼女は私たちを客間へと案内した。
「大丈夫ですか?」
「はい」
「カリン、あいつは誰なんだ?」
レオンは、私たちが気になっていた疑問を投げた。
「あの方はあの子の…クロードの婚約者です」
時が止まる。
頬が赤く腫れたカリンは、こらえるように唇を噛んで俯いた。
静寂を破ったのはノックの音だった。
入室を許可すると、中年の女と男、そしてクロードの婚約者が入ってきた。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさいカリン。おまえは無事…どうして頬が腫れているんだ?」
「そういうことを聞くのは無粋ですわよ、あなた」
「すまんなカリン」
「クロードの葬式の準備はできているわ。来月に行う予定です。カリスタ様、少しカリンを借りてもよろしいでしょうか?」
「勿論です」
「ありがとうございます。なにか不自由がございましたら執事に申し付けください」
「こちらこそ滞在を許可してくださりありがとうございます」
「それでは、失礼いたします」
カリンとよく似たその女は、カリンを連れて部屋を出た。
「レオン殿、お話があります」
「? わかった」
「くれぐれもあの子の葬式で失言をなさらないでくださいね。というか何も喋らないでください」
「どうしてだ?」
「あなたのその口は些か制御が難しそうですので」
「そんなあ…」
「あの子を大切に思っているのならば従ってくれますね?」
「…わかった。だが、あいつに最後一言言いたいことがあるんだ」
「小声ならいいですよ。その一言すら害になり得ることをご理解くださいね」
「わかったよ」
「わかったのならいいです。ギル、悪いけどレオン殿を見張っていてくれる?」
「承りました」
「カリンは藍の国の王女だったのね。青の国の王の姪と聞いたときから少し想像はしていたけれど」
ノックの音が響き、ドアが開く。執事が来て私たちを案内した。




