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「お嬢様を養子に迎えてはいただけませんか」
私たちは伯爵を真っ直ぐに見据えた。胸の奥には焦りと不安、そしてわずかな期待。
伯爵はしばし黙し、低く問うた。
「……二つだけ答えてもらおう。一つ、なぜ君たちが私の娘のことを知っているのか。二つ、あの子自身は承知しているのか」
「お答えします。一つ目は、我々が生き物の過去を視る術を持っているからです。二つ目──お嬢様は何も知りません。人間不信があまりに酷く、人に頼ることを知らない。だからこそ、私たちは動いたのです」
「過去が視えるというなら……私の仕事の性質も理解しているのだな?」
「ええ。カトリーヌ家が帝国の中で高い評価と畏怖を受けている理由も、承知しております」
伯爵の目が細められる。
「ならば、なぜ私なのだ」
「お嬢様が心を許す数少ない相手が、あなた様だからです。さらに──お嬢様はあなたと血を分けた遠縁。正統な王家の血筋を引く方です」
「……馬鹿な」
「いえ、事実です。ただし、彼女自身は出生を知りません。どうか口外なさらぬよう」
沈黙ののち、伯爵は深く息を吐いた。
「……厄介なことを持ち込んでくれたな」
「利は双方にあります」
「……考えておこう」
私たちは静かに頭を垂れた。
ーーー
お嬢様はまだ眠っていらっしゃる。そっと毛布を掛けながら、私は囁く。
「お嬢様……もう少しです。もう少しで必ず救って差し上げますからね」
夜空の月が、静かにその姿を照らしていた。




