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悪魔が目覚めた。また世界の終わりが始まる。
数千年前のあのときのように。
「どうしたの? ぼーっとして」
「…少しまずいことになりました」
「何がおきたの?」
「世界が終わる…」
「お前たちは自分が何を言っているのかわかっているの?」
「お嬢様に世界は救えますか?」
「さっきからなんなの?」
「お答えください」
「必要ならね。これ以上対価を要求する気?」
「いえ、私たちにできることはありません。せいぜい力添え程度でしょうね」
「何が起きたのか、はっきり言いなさい」
「アルス国が禁忌に触れました。おそらく現王家は利用されているだけかと」
「女神の力は有効なの?」
「現状、それ以外の打開策が思いつきません。しかし、お嬢様の覚醒まであと二年も残っています。無理に覚醒を促したりでもしたら、次は体が持ちませんよ」
「時間稼ぎが必要なのはわかったわ。藍の国の訪問も急がなきゃいけなくなったわね」
お嬢様はカリンを呼んだ。
「カリン、藍の国まで残りどれくらい?」
「早くても三ヶ月はかかるかと。しかし旅自体は、予定よりもかなり早く進んでいます。何か目的がおありですか?」
「時間が無いのよ」
「何か事情があるのですね」
「なるべく早く進めるよう、一日の移動時間を増やしましょう」
「わかりました」
カリンはレオンとギルに伝え、出発の準備を始めた。
「あとどのくらいなの?」
「そうですね、なにもしなかったら二年は持ちません。悪魔が目覚めたということは、かなり段階が進んでいるということです。お嬢様の覚醒と悪魔の覚醒、どちらが早いか五分五分といったところでしょうか」
「お父様にも伝えなければ」
「わかりました。赤、橙、黄、緑の国にも触れを出しておきます」
「流石ね」
「恐縮です」
私たちはそれぞれの国に宛てた手紙を書き上げ、魔法で飛ばした。
これで少しは先延ばしできればいいのですが…恐らく無理でしょう。
ーーールベリア
「ん? これは…カリスタんとこの侍女の気配?」
オズワルドは部下に手紙を開けさせた。
「…! 本当ならかなり状況は悪いぞ。国の防衛に力を注がないとな」
ーー橙の国
「そう、レオンは元気なのね。禁忌、か。喜べ、お前たち! これからはより全力で稽古に打ち込め。強敵とぶつかり合うためにな」
年老いた女王の声に、国民は歓声を上げ盛り上がりを見せた。
ーー黄色の国
「武器を準備しなくてはならないな。各工房と鉱山に知らせてこい」
「かしこまりました」
ーー緑の国
「アルスは滅ぼさなきゃいけないわね…トーマス、皆にこれを知らせてちょうだい」
「はいっ!」
ーー
「出発します」
「はい」
「ギル、少しは身体強化は上手くなりましたか?」
「はい、この短時間でもかなり収穫がありました」
「カリスタ様、こいつすげえよ。これを習得したらソードマスターになれるかもしれねえ」
「本当ですか?」
「ああ、俺の勘がそう言ってる」
「カリンはどう?」
「少しだけ発動時間が短くなりましたが、理想にはまだ遠いです」
「カリン様は飲み込みが早いので教えがいがありますよ」
「恐縮です」
「みんな調子良さそうね」
そして三ヶ月後。
私たちは藍の国へと辿り着いた。




