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コツコツと足音が響く。重厚な扉が開き、その先には鏡張りの部屋。
「実験は成功か?」
「はい。しかし、二七はまだ目覚めません」
「そうでもないみたいだぞ」
巨大な試験官のような物に入っていたものが目を開け、青い瞳が露わになった。
「気分はどうだ」
「…」
「どうやらこれが気に入ったみたいだな。もうそこから出してもいいぞ」
試験官が割られ、水が一気に放出された。
男はピチャピチャと音を立ててそこに近づき、頸を確認する。
「確実に成功しているな。アレの元へと行く」
「承知しました」
幾つもの扉を抜けた先に現れたのは、人型の大きなナニカ。
胸の辺りが静かに開き、そこに二七を入れた。起動音とともに頭部のライトが光る。
「ここにいたんだ」
『久しぶり』
「ああ。ずっと君を探してた」
『いいの?もう戻れなくなるよ』
「うん。ここで戻ったらフロリスに顔向けできなくなるし」
『そっか』
「これからよろしくね」
「感度良好。次のステージに進みます」
「パイロットの様子は」
「なにか話してる…?」
「…! 同調値が急上昇!」
「うん、よく動く」
「…この調子なら、このまま次の実験に移れそうか?」
「は、はい」
「二七、今日はここまでだ。帰っていいぞ」
「帰るって、家に帰ってもいいの?」
「ああ。喜べ」
二七は巨大なナニカから飛び降り、足早に去っていった。
「お疲れ様です。スーツを脱いで、こちらに着替えてから退勤してください」
「ん」
走って、自分の帰るべき場所へと戻る。
「ただいま」
「…え? おかえり、久しぶりだね」
銀色の髪をなびかせる彼に抱きつく。
困ったように頭を撫でる彼に甘えた。
「これは何?」
「あー、これは僕を監視、管理するためのもの。今は一時的に君の下へ帰れたけど、こういう日が続くかもしれない」
「…!」
「なんで急に遠ざかるの?」
「ネレウス、君は何をしていたんだ?」
フロリスの赤い瞳が恐怖に揺れる。
「何って、実験だけど…」
首輪が光り、気管を塞いだ。
「ぐうっ…これも駄目なの?」
「ネレウス!」
「はあっ、はあ…」
「何も言えないんだね?」
「う、うん」
「なんでそんなものを体に入れてるんだよ…」
「君にはわかるんだ」
「自分を大切にしろって言っただろ」
「それでも僕はこれが最善だと思った」
「一つ忠告しておく。これ以上それと共にいると君は壊れるぞ」
「それでも僕は君の望む世界に君を連れていきたい」
「そうだね、私たちは…俺らは幸せにならなきゃ」
「そのために使えるものは全部使えばいいんだよ」
ベッドがギシギシと音を立てる。
ネレウスはフロリスの上に跨り、そして首に手をかけた。
「それができないなら前みたいにしてあげる」
「それはごめんかな」
フロリスはネレウスの手を取り、ネレウスの上に跨った。
フロリスの絹のような髪がネレウスに垂れた。驚きにネレウスの青の目が開かれる。
「君に反撃されるのは初めてだ」
「やられっぱなしじゃあね」
フロリスはネレウスの首元に噛みついた。
ネレウスはただフロリスの喉が動くのを見ていた。
「んっ…」
「もういいだろ」
ベリッとフロリスを剥がす。
「また強くなった?」
「暇だったから」
「ふーん。まあ、いいか。別にそれ自体は死に直結しないし」
「疲れたしもう寝たい」
「君らしいや」
二人は背を向け眠りについた。




