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「アルベルト様」
カリンは隣に座る叔父を見上げた。
「クロードの顔を、見せてくれるかい?」
「……お見通しでしたか」
スルスルと亜空間から、氷漬けのまま時を止めたクロードが現れる。
「笑っているね……」
「はい。最期まで、私の心配をしていました」
アルベルトはそっと氷の塊を撫でる。
「カリンは、俺より先に死んだらダメだよ」
「なんで……なんで!!!!」
カリンの叫びが、部屋の外まで漏れた。
「なんであの子が死ななきゃいけなかったのよ!」
アルベルトは黙って、カリンを見つめ続ける。
「あの子、私のせいで死んだんだよ?」
「どういうことだい?」
優しい声で問うアルベルトに、カリンは唇を震わせながら続けた。
「あの攻撃、あの子なら避けられた。魔法の発動が間に合わなくても、避けることはできたはず。でも……私が隣にいたから、しなかった。できなかったの」
「それでも――それを選んだのはクロード自身だ。そしてそのことで、カリンが自分を責めることを、あの子は望んでいないと思うよ」
「私、私は……」
「自分を否定するより、あの子を肯定してあげなさい」
「……はい」
「よく頑張った。もう、寝なさい」
「失礼します」
部屋を出るころには、カリンはいつものように敬語に戻っていた。
*
翌朝。
「おはようございます、皆さん」
「おはよう、カリン。よく眠れた?」
「はい。昨日はご心配をおかけしました」
「少しは心が軽くなったみたいだね」
「はい」
「侍女殿」
「なんでしょうか」
「あなたに、魔法の瞬発力を鍛えてほしいのです」
「カリン様の、ですか?」
「はい。私が見た中で一番優れているのは、あなた方ですから」
……私たちの正体に気づいている?
本当に聡いお方ですね。
「大分鈍ってしまっていますが、それでもよろしいですか?」
「もちろんです」
「レオン殿、貴方はどうなさいますか?」
お嬢様がレオンに問う。
「俺か? 俺は……そうだな、今まで通り身体強化を磨くよ」
「私に教えてくれませんか?」
そんなレオンに、ギルがお願いをする。
「お? いいぜ。お前には素質がある。死ぬ気でついてこいよ」
“死”という言葉に、カリンがぴくっと反応した。
……あまりにもデリカシーがありませんね。
「軽々しく“死ぬ”などと言ってはいけませんよ」
お嬢様が諫めに入る。そして、レオンの耳元でそっと告げた。
「クロードが亡くなったばかりだというのに、そのような言葉を片割れや仲間の前で軽々しく口にしてはいけません」
「……すまなかったな」
レオンは素直に謝った。
だがそれ以降、カリンに露骨に塩対応されるようになった。
それは旅に出ても、ずっと続いた――。
そして、私たちは藍の国へと向かう。




