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「…誰?」
『はじめまして』
「…誰なの?」
『私の名前は_____です』
*
「だいぶ動くようになったわ」
お嬢様の体も回復し、次の目標——ドラゴンの住む山へ向かうことになった。
約束通り、橙の国から旅のお供が派遣されてきた。…しかし、なぜこの男を?
「カリスタ様、この国で一番強いのは俺だ。俺でいいなら連れて行け」
「頼りにしていますよ」
握手を交わし、すっかり仲直りした橙の王太子が、旅の仲間に加わった。
「王太子殿下、蛇が出ますので注意してください」
「カリンか。俺のことはレオンと呼んでくれ」
「いえ、不敬になりますのでどうかご容赦ください」
カリンは頑なに名前を呼ばず、自分との距離を示していた。
「カリスタ様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ」
寝込んだ影響で体力が落ちたお嬢様は、少し息切れしていた。
「お嬢様、私たちが運びましょうか?」
「…じゃあ、お願いしようかしら」
私はお嬢様を抱え、先へ進む。
「もう少しですね。あの山です」
カリンが指差した先には、頂が鋭く尖った山がそびえていた。
突如、地響きが走る。
「うわっ!」
「地震?」
「いや、ドラゴンの咆哮だ」
「腕が鳴るな」
皆、戦意をみなぎらせていた。
「その前に、国へ挨拶してからね」
「はーい」
私たちは黄色の国と緑の国に立ち寄った。
「橙の国からお話は伺っております。こちらを…」
黄色の国は鍛え抜かれた武器を、緑の国は一人の案内係を差し出した。
名はトーマス。虚ろな目で、淡々と指示を出す。
国に命じられた仕事を「死ねと言われたのも同然」と受け取るのも無理はない。
「ここを右に曲がります」
カリンが静かに囁く。
「…カリスタ様、居ます」
しかし案内人は間抜けだった。
「居るって、ドラゴンですか?」
「ばかっ、そんな大声を…!」
咆哮が響き、ドラゴンが目を覚ました。
頼りない人材だが、仕方ない。
「ここで迎え撃つしかない」
レオンが袖を捲り、戦闘態勢に入る。
「お前たち、私を下ろしていいぞ」
「わかりました」
私たちはお嬢様を背から下ろした。
「では、この者と共にいる。あとは頼んだぞ」
「お任せください」
久々のドラゴン戦だ。腕が鳴る!
*
「私は悪くない、悪くない、悪くない…!」
男が震える。カリスタはため息をつきながら声をかける。
「ねえ、あなた」
「はい?」
「トーマスと言ったかしら?どうしてここに?」
「国に見捨てられたんです。ドラゴン退治なんて、ほんとにできるんですか…?」
(なんて無礼な…)
カリスタは言葉を心に留めた。いや、留めようとした。
「あなた、何様なの?」
留められなかった。
「先程からごちゃごちゃ五月蝿いのよ。男なら覚悟を決めて、国の命に誇りを持って立ち向かいなさい!」
「は、はい!」
トーマスは一喝され、背筋を伸ばす。
顔を上げ、戦いの行く末を見据える。
「それでいいのよ」
そこに、へこたれた小僧はいなかった。
今、目の前にはしっかり今を見据える男が立っていた。




