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「ごめん。カリスタ様を護る役目だったのに、俺が先に倒れちゃって」
クロードは意識を失ったお嬢様の傍らに座り、静かに呟いた。
ギルは少し離れたところで、その姿を黙って見守っている。
「そうやって寄り添うのも大事だけど、」
カリンは優しく、しかし少し厳しい声で言った。
「目が覚めたとき、すぐ動けるように準備を整えるのも“護る”うちよ」
「姉さん……そうするよ。少しでも役に立ちたいし」
クロードは名残惜しそうにお嬢様を一瞥し、ゆっくりと立ち上がった。
その背には、かすかな決意が灯っていた。
*
一週間が経つころには、お嬢様の体は再び動かせるようになっていた。
「では、包帯を外しますね」
侍女の手が慎重に包帯をほどいていく。
露わになった皮膚は、まるでひび割れた陶器のように痛々しい。
「……お嬢様」
声が震える。
「……まあ、助かっただけマシね」
お嬢様は、思いのほか平然としていた。
その冷静さにこそ、彼女の強さが滲んでいる。
扉がノックされた。
「失礼します。カリスタ様、謝罪に参りました」
「どうぞ」
入ってきたのは女王と、橙色の髪をした大柄な男――この国の王太子だった。
男は深く頭を下げ、搾り出すように言った。
「本当に、申し訳ありませんでした」
「……それで?」
「お詫びに、どんなことでも協力いたします。同盟を結び、これからは人の派遣も惜しみません」
お嬢様はわずかに目を細め、静かに頷いた。
「受け入れます」
二人は条件と出発の日時を決め、礼をして去っていった。
*
「お嬢様……本当に、よかったのですか?」
「ええ。かなりの好条件じゃない?」
「もともと同盟を結ぶつもりだったのでしょう。それでも詫びとしては足りない気がしますが」
「ちゃんと聞いてた? あの人、“これからは人の派遣を惜しみなくする”って言ったのよ」
「……!」
「そう。私が玉座を取り戻したあと、復興には人手がいる。その時に協力してくれる――それだけで十分」
「……お嬢様が納得されているなら、何も申しません。ただ……ご自身を、もう少し大切に」
「……考えておくわ」
はぐらかされた。
この方は、いつもそう。
“契約者だから心配している”とでも思っているのだろう。
けれど私たちにとって、それは違う――。
「次からは必ずお守りします。二度と、同じことは起こしません」
ギルが真っ直ぐに言い切った。お嬢様の目を、逸らさずに。
「……がんばって」
その言葉は、まるで他人事のように淡々としていた。
そして、お嬢様は静かに顔を背けた。




