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朽ちぬ女王  作者: 水無適
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3

「今日で最後か……」

「一ヶ月、長いようで短かったですね」

「そうね、ここは……」


滅多に感情を口にしないお嬢様が、言いかけとはいえ言葉にした。

それだけで、私たちはほんの少し心をざわめかせる。……少し、手を打っておきましょうか。


「何をぼんやりしているの? 早く支度なさい」

「ふふ、なんでもありません」

「……気づかないふりをしてあげるわ」

「ありがとうございます」


やはり、お嬢様は優しい。そういうところが、私たちを虜にしてやまないのです。


「……今日でお別れだね。寂しくなるなあ」

「伯爵、また会えるのを楽しみにしております。では、ごきげんよう」


その時、お嬢様はほんの少しだけ笑った。

それだけで、その場の空気が一変した。

侍女たちが目を見開き、息を飲む。

馬車へと乗り込むその姿は、まるで一枚の絵画のような美しさを放っていた。



「……少ないわね」

「気になさらず。夜には皆戻りますから」

「……はあ。少し眠るわ。着いたら起こしてちょうだい」

「かしこまりました」


お嬢様は、何かを悟ったような瞳で私たちを見た。

その顔にも、憂いにも、やはり惹かれてしまうのです。

「さて、様子を見ましょうか」

私たちは少しを残して意識を切り替える。



カトリーヌ伯爵の書斎。ひと気のない部屋は、狙い目だった。


「しっ、静かに」

短く悲鳴を漏らした伯爵に、私たちは現れた姿で言葉を投げる。


「な、何者だ……!?」

「遅ればせながら、私たちはお嬢様の下僕でございます。本日、お伝えしたいことがあり、お邪魔いたしました」

「……その玩具は意味を持ちませんよ」

「ええ、どうぞ下ろしてくださいませ」


私たちは交互に、淀みなく言葉を重ねる。


「……何の用だ」

ようやく観念したのか、伯爵が問いを返す。

「お話を聞いていただけるだけで十分です」


「お嬢様は、哀れなのです」

「……そう、とても」


「ですから、伯爵様。あなたには――お嬢様を、救っていただきたいのです」


「……は?」

「そのままの意味です」

「もしかして、伯爵様はお嬢様を……亡くされた娘君と重ねておいでではありませんか?」


「――失礼だな。君たち、そんな無礼な物言い……裁かれても文句は言えんぞ」


さすが貴族。腹は出ていても、威圧の気配は伊達ではありませんね。


「ご無礼を承知で申し上げております。とはいえ、私たちに裁きは届きませんので」

「……ええ、無縁なのです」


「どういう意味だ?」


「私たちは――」


「ははっ! 無茶を言う。……だが、自分たちの主に災いが降りかかるとは考えないのか?」


一瞬の沈黙。

その後、私たちのひとりが静かに、確かな声で告げた。


「私たちはいつ、どこにいても。お嬢様を護るために存在しています。必要とあらば、神であろうと殺しますよ。私たちの愛おしい主が望むなら」


私たちは、ひとり、またひとりと頷いた。


「……で、君たちは私に何をしてほしい?」


「伯爵様。あなたは、多少趣味が偏ってはおいでですが……本質的には善き人であると判断いたしました」


「またずいぶんと失礼な言い様だね」


「伯爵様、おいくつで?」


「……今年で三十だが」


「……は?」


三十?!

あの小太りで息の荒い、ドミノ倒しできそうな鼻息の貴族が三十!?

五十代後半かと……いや、いやいや、失礼が過ぎますか。


「……そ、そうですか。大変失礼いたしました。では――一つ、お願いがございます」


「お嬢様を、あなたの養女に迎えてはいただけませんか?」

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