28
時々、夢を見る。
なんの感情も宿っていない青の瞳が、まっすぐにこちらを見つめている。
彼は倒れた私の上に跨がり、細い指で首を締める。
「だって、生きたくないんでしょ?」
その言葉を最後に、いつも夢は途切れる。
喉に残る冷たい感触を払いながら、息を吐いた。
「……まだ夜か」
紅い瞳は月を見つめる。布団を被り、暗闇に身を沈めた。
*
「カリスタ、旅にはこの者たちを連れていくといい」
オズワルドの声に促され、二人の男女が跪いた。
お嬢様と同年代ほどの若者たち。
「初めまして、陛下。私はカリンと申します」
短い黒髪に紫の瞳。静かな湖のような印象を与える女性だ。
「先日はありがとうございました。私はクロードです」
聞き覚えのある声。
庭園で出会ったローブの男だった。
同じ紫の瞳でも、彼のそれは輝きを宿している。
好奇心と無鉄砲さがそのまま光になったようだった。
「よろしくね。旅の間は“カリスタ”と呼んでちょうだい。ギル、あなたもよ」
「わかりました!」
ギルの顔がぱっと明るくなる。
……いくらなんでも素直すぎでは?
「今日中に出発したいです」
「そう言うと思って準備は万端だ。気をつけてな」
オズワルドの笑顔に見送られようとした時、カトリーヌが一歩前に出た。
「カリスタ。私はフランソワのもとに戻って、王家とアルスの動きを探るつもりです」
「あっ……」
寂しげに目を伏せるお嬢様の頭を、カトリーヌはそっと撫でた。
「……強くなって帰ってきます」
「はい。また会いましょう」
自分とは違う道を進むカトリーヌの背中が見えなくなるまで、お嬢様は立ち尽くしていた。そして、オズワルドに何かを耳打ちしたあと旅立ちを告げた。
「私たちも、行きましょうか」
彼女の瞳は、エメラルドのようにまっすぐ前を見据えていた。
*
「二人は双子なんですね」
「はい。先日は弟がご迷惑をおかけしたそうで、申し訳ありません」
「いえ、楽しい時間を過ごせましたから」
「寛容なお言葉、感謝します」
カリンは礼儀正しく、言葉にも無駄がない。
「カリスタ様って、魔法効かないんすよね?」
「ええ」
「うーん……あっ、ちょっと失礼しますね」
クロードが指を弾く。
瞬間、お嬢様の髪と瞳の色が変わった。
光を受けて揺れる金髪は栗色に、エメラルドの瞳は灰色にくすむ。
「お、やっぱりこれなら大丈夫っすね」
「……お嬢様の周囲に魔力の膜を張ったのですね」
「お、あんたはわかるんだ!光の反射を少し変えてるだけっす」
「おかげで問題が解決しました。ありがとう、クロード」
クロードは人懐っこく、姉とは正反対の性格だ。
その明るさが、どこか場の緊張をほぐしていく。
新たな仲間とともに、お嬢様は橙の国へと向かった。
南から吹く風が、出立の合図のように背を押した。




