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「時間もないですし、すぐにでも橙の国へ向かいたいです」
「カリスタ、旅に魔法使いは何人必要だ?」
「うーん……強い方が二人いれば十分かと」
「わかった、選んでおく。数日待ってな」
「感謝します、オズワルド様」
客間を辞し、滞在する部屋へ案内される。
ようやく一人になれたからか、お嬢様は小声で私たちを呼んだ。
「お前たち」
「はい、お嬢様」
「冬だし、ネズミが出ないか心配だわ」
「……承知しました。見つけ次第、報告いたします」
お嬢様の部屋を見渡す。
守りの魔法、人避けの魔法……それに――盗聴魔法。
信頼していたのに、残念です。けれど、陛下の意志ではないはず。
「耳の大きなネズミが四匹います」
「あら、そう。駆除しておいてね」
「かしこまりました」
魔法陣を一つずつ破壊し、上から盗聴防止の結界を張る。
全く、どこの誰がこんな姑息な真似を――。
「散歩したいわ」
「わかりました。ギルを呼んで参ります」
「そうして」
扉が叩かれる。
「入って」
「失礼します」
「少し歩きたいの。ついて来てくれる?」
「もちろんです」
ギルは笑ってお嬢様のあとを追った。
*
王宮庭園の奥――冬でも青々と茂る温室。
珍しい花々が咲き誇る中、お嬢様は立ち止まった。
「この花、見たことない……」
「当たり前だ。新しく開発したものだからな」
思わぬ返事にお嬢様は目を見開いた。
いつの間にか背後に立っていたのは、深いフードを被った男。
低く澄んだ声が、空気を震わせる。
「この花の花弁一枚でかなりの魔力が回復する」
「画期的ですが、戦場に持っていくには……枯れませんか?」
「枯れないように調整している」
「繁殖は?」
「根で増える」
「それでは広まりにくいのでは?」
「貴女はどう考える?」
「実の中に多くの種子を仕込めば、一つで百に増えるのでは?」
「――気に入った!」
次の瞬間、男の気配は消えていた。
お嬢様が顔を上げると、そこには風だけが残っている。
「……なんだったのかしら」
「陛下、どこにいたんですか!?」
「ずっとここにいたわよ」
「……空間魔法、ですか」
「私に効かないはずじゃなかったの?」
「空間に作用する類なら、可能かと」
「使いようね。――お茶にしましょう」
*
「姉さん、さっき面白い人に会ったんだ」
「……そうなの」
紅茶を啜る女。
隣で興奮気味に語る男。
ルベリアの宮廷の片隅で、またひとつ新たな歯車が回り始めていた。




