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「ペンと紙をください」
お嬢様は差し出されたそれらを受け取ると、静かにペンを走らせた。思考の流れを言葉に変えるように。
『赤、橙、黄、緑、青、藍、紫』
「どうせなら物語性があった方がいいよね」
その一言に、場の空気が凍りついた。カトリーヌでさえ、背筋に寒気が走る。
お嬢様のペンは止まらない。
『赤の国――魔法全般に特化。アルスと対立。
橙の国――身体能力の高さ。強者に従う。
黄の国――武器の大量生産。酒好き。
緑の国――豊富な資源。仲間意識が強い。
青の国――膨大な知識を有す。未知を好む。
藍の国――精霊と妖精の加護。礼節を重んじる。
紫の国――神聖魔法と信仰。神に近い存在。』
「ふむ……」
お嬢様は一度息を整え、さらに書き加えていく。
『私たちの課題――
アルスの科学力を超える“圧倒的な力”の保持。
アルスの新兵器の正体を暴くこと。
そして、玉座を取り戻した後の国内外の整備。』
お嬢様の瞳がわずかに細まる。
『赤以外の国は閉鎖的。でも、突破口はある。
黄の国では鉱山をドラゴンが塞ぎ、武器の生産が止まっている。
その鉱山は緑の国とも繋がっている……。
ドラゴンを倒せば、緑に恩を売れる。
仲間意識の強い彼らなら、必ず応じる。
黄の国も同様だろう。』
思考の筆致がさらに速まる。
『ただ、今の私には力が足りない。
赤の魔法、橙の身体能力――その二つがあればドラゴンは倒せる。
ドラゴンの知識は青の国が求めるはず。
青を通じて藍の国の精霊に接点を持ち、最後に紫の神聖魔法へと至る。
――赤から紫へ。虹の外側から順に、世界を繋ぐ。』
お嬢様はペンを置き、微笑んだ。
「……どうですか?」
オズワルドは口を半開きにしていた。
「カトリーヌ……お前、どこでこんな怪物拾ってきたんだ」
「拾ってきたわけではありませんよ。最初から、そこにいらっしゃったのです」
「……参ったな。たった今思いついたとは思えん。面白い。少し、協力してやる」
「ありがとうございます」
オズワルドは愉快そうに笑いながら、手紙を書き始めた。
「橙の国に伝えておこう。“とても強い者を送る”とな」
お嬢様の笑顔がわずかに引きつった。
「……オズワルド様?その文面、入国した瞬間に襲われませんか?」
「賢いな。だが、王族に会うにはちょうどいい餌だろう?」
「……愉快な方ですね」
空気が、一瞬で冷たく変わる。
ぞわりと、背中をなでるような殺気。
「あれ?魔法が……解けちゃったかな?」
オズワルドの頬が見る間に青ざめていく。
お嬢様は穏やかに、微笑んだまま言った。
「いえいえ。感謝していますのよ?
おかげで橙の王にすぐ会えますもの。とっっても感謝していますの」
「……ご、ごめんなさい」
「怒ってなんかいません。ねえ、私、笑っているでしょう?」
その笑顔に、オズワルドはガクガクと震えるしかなかった。
謝罪を重ねても、赦しは与えられなかった。
お嬢様はただ、心の底から楽しそうに微笑んでいた。




