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朽ちぬ女王  作者: 水無適
25/51

25

一ヶ月に及ぶ航海が終わる頃、カトリーヌの体は半分ほどに細くなっていた。

食事が口に合わないと言って、ほとんど食べなかったのだ。


……痩せたら、ずいぶんと見違えましたね。

すらりとした体型に短い茶髪、焦げ茶の瞳はどこか若々しい光を宿している。

二十五歳と言われても納得してしまうほどだ。

ただ、服がぶかぶかで似合わない。新しく仕立てる必要がありそうです。


「……まずは服屋さんに行きましょうか」


お嬢様は苦笑しながらそう言った。

カトリーヌは、どこか申し訳なさそうに頭を下げた。


「服も新しくできたことですし、用事を済ませますか」

「ええ」


お嬢様たちは王宮へと向かう。

その横顔には、少しの不安が影を落としていた。



王宮の門前。

重厚な鎧を着た兵士たちが立ちはだかる。


「カトリーヌが来たと伝えてくれ」

「こちらでお待ちください」


通されたのは、金糸の刺繍が施された豪華な客間だった。

彼らもすぐに理解したのだろう。カトリーヌがただ者ではないと。


「よお、カトリーヌ。……って、お前、だいぶボリュームダウンしたな!」


声の主はルベリア王・オズワルド。

痩せたカトリーヌを見るなり、大笑いを始めた。


「お久しぶりです、陛下」


カトリーヌは片膝をつき、礼を取る。


「名前も顔も女みてぇだな!なんなら女装してもう一回来い!」


オズワルドは腹を抱えて笑う。

……ああ、完全に地雷を踏み抜きましたね。


「陛下、私の先祖を馬鹿にしているのですか?」

「いや、すまんすまん。ちょっと面白くってな」


まだ笑みを残しつつ、王は話題を切り替えた。


「アルスが、そっちの王家についたらしいな。……こっちとしてもお前には恩がある。アルスを排除できるなら悪くない話だが、私は統治者だ。利益がなければ動けん」

「アルスを排除できるのは、これ以上ない利益では?」

「少し足りんな」

「強欲ですね。しかし、王家は他国とも同盟を結ぶようです」

「本当か?」


短い沈黙。

オズワルドの表情が、わずかに険しくなる。


「ええ。だからこそ今が好機です。奴らを一網打尽にできる、唯一の機会では?」

「……いいだろう。同盟を結ぼう。そちらの方が“陛下”か?」


鋭い視線が、お嬢様――カリスタへと向けられる。


「お気づきでしたか」

「あれだけ放ってる威圧感で、気づかぬわけがなかろう」

「それもそうですね」


そうして、同盟は拍子抜けするほどあっさりと結ばれた。


「初めまして、真なる方よ」

「初めまして、赤の王よ。私の名はカリスタ」

「俺はオズワルドだ。よろしくな」

「ええ、こちらこそ」


カリスタの笑顔が柔らかく花開く。

その微笑みは、まるで天使が舞い降りたかのように、周囲の空気を変えた。


「カリスタ、計画は立っているのか?」

「大まかには。まず、アルスの“新兵器”の情報が必要です。暗殺という手もありますが、成功率は一割にも満たない。現実的ではありません」

「ふむ」

「アルスは軍事国家。正面からの戦では、こちらは劣勢です。だから、同じ手を取ろうと思いました」

「そのための同盟、というわけか」

「ええ。ルベリアならアルスに並ぶ力を持つ。頼もしい味方です。それに――ルベリアだけではありません。虹の国々とも手を結ぼうと思っています」

「ずいぶん大きく出たな。カトリーヌに伝手があったから、俺とは繋がれたが……他の国はどうするつもりだ?」

「国ごとにアプローチを変えるしかありませんね。七つ……いえ、あと六つの国との同盟を――」


「カリスタ? もしかして今、考えているのか?」

「はい。少し待っていただけますか? 紙とペンをください」


カリスタはペンを手に取り、真剣な眼差しで紙に向かう。

王もカトリーヌも、その集中力に息を呑んだ。


この方は本気なのです。

誰よりも、国の未来と人々を想っておられる。

そして私たちは、侍従として何としてでも支えなければならない。

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