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朽ちぬ女王  作者: 水無適
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22

カトリーヌ邸。


「……君だけか」


月明かりに浮かぶ銀髪。

フロリスの髪が冷たい光を散らし、背後には血の匂いと黒い影が伸びている。


「……ん、んん……」

「おはよう、フロリス」

「殺さなきゃ……」


ネレウスはため息をつき、軽くデコピンを食らわせる。


「寝言にしては物騒だね」

「……ああ、君か。すまない」

「別に。それより、どういう状況?」

「ああ……お姉さんがやったらしい。あの侍女もどきがね」

「君まで巻き込まれなくて良かった」

「なにそれ」


フロリスはかすかに笑った。

ネレウスは傷だらけの彼を背負い、夜の街を抜けて拠点へ飛ぶ。



「なぜそいつだけ生き残った?!」


報告を終えるや否や、怒声が飛ぶ。拳が振り下ろされる。

それはフロリスではなくネレウスに当たった。


「……」


青の瞳が淡く光り、男をまっすぐに見返す。


「誰を睨んでいる?!」


もう一発。今度は的確に狙われた拳。

だがネレウスは避けず、視線を逸らさずに受け止める。

気絶したフロリスを背負いながら、二倍近い体格の男の拳を二発も受けても、うめき声ひとつ上げない。


「その目が気に入らん! 抉り取ってやろうか!」


男は吐き捨てるように言い、ソファに腰を落とした。


「失礼します」


ネレウスは淡々と頭を下げ、部屋を出た。

部屋に戻り、フロリスに包帯を巻いていると彼が目を覚ます。


「ネレウス……君こそ傷だらけじゃないか」

「気にすることはない」


布の擦れる音だけが夜に響く。


「フロリス、僕は_______」

「…自分を大事にしなきゃだめだよ」

「終わったよ」


ネレウスは包帯を仕舞いながら、その言葉を聞かなかったかのように無表情を保つ。



朝。

戦闘の余韻を残したまま、お嬢様は眠たげに目を擦った。

かわいい…かわいいですね!!


「カリスタ、一週間後にルベリアへ向かいます」

「わかりました。良い結果になるといいですね」

「ええ」


一週間あれば準備は整うだろう。しかし、ルベリアは遠い。道中の危うさが胸をよぎる。



昼過ぎ。お嬢様の部屋の扉がノックされた。


「ミネルバ夫人!」

「よく眠れましたか?」

「お陰様で。ありがとう」

「出立に向けて服の準備をしたいのですが、採寸してもよろしいですか?」

「もちろん」


ミネルバが手を二度叩くと、仕立ての者たちが雪崩れ込み、てきぱきと採寸が進む。十分もかからず終わった。


「このあとお茶でもいかがでしょう」

「いいですね」


二人は花咲く庭へ向かった。


「季節外れの花が多いですね」

「ええ、魔法で温度を保っていますから」

「この薔薇……白いのですね」

「お気をつけください、陛下。薔薇には棘がございます」

「ミネルバ夫人、少し話を聞いていただける?」

「もちろんです」


お嬢様は白薔薇に視線を落としながら語り始める。


「昔、小さな白薔薇を見たことがあります。美しくて、目印までつけた。もう会うことはないと思っていたのに……最近、同じ白薔薇を見つけたのです」

「それは、奇遇ですね」

「けれどその花は、私の行く先を塞ぐ大きな棘の折になっていました。どうすればいいのかしら」


ミネルバは微笑み、答える。


「花はいつか枯れます。時を置いてみるのもひとつの手。あるいは、自ら手入れをして咲かせ直すのも」

「……参考になります」

「お役に立てて嬉しいです。私は陛下を応援しております」

「ありがとう」


お茶会のあと、お嬢様の表情には、わずかながら迷いの影が消えていた。

どんな話をしたのか——いつか本人の口から聞ける日を信じていますよ。

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