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朽ちぬ女王  作者: 水無適
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そう、刎ねた——はずだった。

だが、目の前の男は首を繋いだまま生きている。


「なっ……」

刃は確かに通った。なのに、何か硬質な膜に弾かれたように感触が逸れる。もう一度狙うが、同じことが繰り返された。


「これは……結界? いや、誰がこんなものを——」


「侍女殿、状況は?」


ギルの声に意識が引き戻される。奴を仕留めるより、お嬢様の安全が先だ。


「大丈夫です。ただ……屋敷は崩れて住めません」


お嬢様がギルに支えられて現れる。背後からカトリーヌも姿を見せた。


「カリスタ、フランソワのところへ移りましょう」

「わかりました」


「ねえ、あの人……」


とお嬢様が振り返る。


「敵です。殺せません、だから無視します」

「そうじゃなくて……まあいいわ」


お嬢様の言葉に違和感を覚えつつも、立ち止まる暇はない。私たちはフードを深くかぶり、闇に紛れて人気のない道を急いだ。



静かな夜を破るように、フランソワ邸の扉を叩く音。


「お待ちしておりました。湯船の用意をしております」

「ありがとう、ミネルバ夫人」


匿われる形で、お嬢様・ギル・カトリーヌの三人は邸内へと入った。

湯浴みを終えたお嬢様は、暖かなランプの下でカトリーヌと向き合う。


「数日のうちに王室から正式に指名手配が出るでしょう」

「ええ。こちらも動かなければ」

「向こうにはアルスがついている。ならば……こちらも味方を作ればいい」


お嬢様の口元に浮かぶ笑み。カトリーヌも静かに笑い返す。


「それは良案ですね。ルベリアなら、話は通じるかもしれません」


ルベリア。アルスと敵対する最大の強国。科学では劣るが、魔法においては群を抜く。もし味方にできれば——心強い。


「昔、縁がありました。交渉の糸口にはなるでしょう。カリスタ、どうされますか?」

「やるしかありません」

「では、こちらで連絡をつけます。日程が決まり次第、お知らせします」

「お願いします。では——おやすみなさい」

「おやすみなさいませ」


お嬢様が部屋へ下がると、カトリーヌは一人、フランソワ子爵のもとを訪れた。


「大ごとになりましたね、伯爵」

「身を隠すのを助けていただき感謝します。まさかアルスと王室が手を組むとは」

「これからのご予定は?」


カトリーヌは月光を透かすワインをゆっくりと回す。その瞳には揺らぎがない。


「ルベリアへ向かいます」

「承知しました。出立の準備を」

「ああ、頼みます」


グラスを置いたカトリーヌは手紙を書き終えると、窓辺に立った。紙片は鳥の姿へと変わり、夜空へ溶けていった。

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