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現在、ほとんどの国が魔法頼りの生活や戦をしている中、アルスは魔法は劣っているが産業、科学に秀でた国である。
爆撃の音は止まらない。
屋敷は魔法結界で守られているが、物理攻撃には防空壕くらいしか対策がない。科学は日常とはかけ離れた技術なのだ。この防空壕も、どれだけ耐えられるだろうか……。
そう考えていると、急に射撃が止んだ。
お嬢様は震える手を隠し、私たちに命じる。
「周りの確認を」
「様子を見てきます」
私たちの一人が外に向かうと、思わず顔をしかめる悪臭が鼻をついた。人の焦げた匂い。さらに熱風が襲う。エンジン音は聞こえない。
風で煙が晴れると、全身黒衣の集団が現れた。その中に、見覚えのある銀髪の人物。アルスの戦闘機は消えていた。
「お久しぶりです」
「はい。でも、できれば会いたくなかったです」
「そういえば、あの小さい子はどうしました?」
「小さい子?」
「あなたの隣にいた黒髪の」
「ああ、彼ならしばらく戻らないそうです」
探り合いが始まる。攻撃のタイミング、反撃の手順……やりづらい。相手は同じタイプだ。
一人が私に切りかかってきたが、一刀両断。隙が命取りになる相手だから、油断は禁物だ。
しびれを切らしたのか、司令官らしき人物が声をかける。
「今すぐ匿っている者を引き渡せば、命は助けてやろう」
ベタな脅しに、私は答えない。
「あなたたちはアルス国の兵ですか?」
「いいや、王家の部隊の一つだ」
「ならば従えません」
危険性を持つおチビちゃんも今はここにいない。少し暴れても大丈夫そうだ。
「その防空壕に姫さんがいるのですね?」
「ええ、だから退けません」
沈黙の後、フロリスが口を開く。
「自己紹介がまだでしたね。私はフロリス。あなたの名前は?」
「私たちに名前はありませんよ」
警戒は一ミリも緩めない。目を逸らさず、次の動きに備える。
次の瞬間、フロリスは自ら右腕を切った。
血が地面に落ちると、辺りの植物は腐敗した匂いとともに枯れていく。
手を私に向けると、血がこちらに飛んできた。避けるが、彼の腕は上に挙がっていた。上を見上げると、無数の血が降り注ぐ──まずい、これは当たる。
腕が振り下ろされると、焼けるような痛みと、じわじわと広がる灼熱。ふわっと香る薔薇の匂いが忌々しい。
彼には殺意はない。笑みを浮かべて、次の行動を考えているのだろう。
先程の攻撃で服についた血が棘のように変化し、私の体を貫く。
「うっっっ」
「なぜ死なないのですか?」
「私も驚いています。ここまで魔力の強い者は久々ですから」
彼の魔力は圧倒的で、他の生物は耐えられず消える。だが、厄介なのは思考力の高さだ。頭の回転と経験量が異常だ。そこさえ押さえれば──。
「フロリスさん、混ざっているとはいえ、流石トカゲの血が入っているだけありますね。血、薔薇の香りがしました。長い髪も。もしかして___女の子ですか?」
「私は男だ」
苛立ちを含む声。風に揺れる俯いた顔の赤い瞳が、静かに私を捉える。
ああ、わかりやすい子でよかった。
「フロリス、落ち着け!」
「…」
「あいつ、フロリスを怒らせた」
背後に回り、彼を気絶させる。
「アルスの力がないなら、処理は簡単です」
私は目の前にいた全員の首を、刎ねた。




