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季節は巡り、春が来た。
少し肌寒いが、花が咲き揃い景色は美しい。
「おはようございます、陛下。本日10時から会議がございます」
「おはよう、ギル。場所はどこかしら?」
「第一会議室です。資料はこちらです」
「ありがとう」
「お前たち、お茶の準備をしてちょうだい」
「かしこまりました」
朝の光を受けながら、お嬢様は花を眺めつつモーニングティーを嗜む。春の薄い冷気が吹き抜ける。何か、新しいことが動き始めている気配がする。
カトリーヌの声で会議は始まった。
「王家に動きがあり、新兵器の開発報告がありました。さらに、連絡していた偵察班との連絡が途絶えています。対策案を提示しますので、確認と決定をお願いします」
資料に目を落とす陣営たち。要点は二つ──新兵器の脅威と、その背後にいる可能性のある後ろ盾だ。ある廷臣が口を開く。
「暗殺も視野に入れていますが、現状の警備体制を見る限り成功は難しい。失敗すれば我々の関与が露見します」
別の者が続ける。
「しかし、後ろ盾の有無と新兵器の詳細を早急に調べる必要がある。情報の精度次第で手を打ちましょう」
結論は慎重路線で一致した。暗殺は手段の一つだが、確実な勝算がなければ賭けられない──それが主流の判断だった。会議は短く終わり、各自に調査の指示が下った。
会議を終えたあと、私たちはお嬢様と静かな湖畔へ向かった。鳥のさえずりと、わずかな水音だけが聞こえる場所だ。昼食はピクニックである。侍女の私たちと地面に座って食べるのは久しぶりだが、お嬢様はにこにことしている。栄養失調だった頃が嘘のように、今はよく食べ、よく育っている。
「このサンドイッチ、美味しいわ」
「料理長自慢の一品でございます」
「ふふ、想像がつくわ」
「やっぱり、お嬢様には笑っていてほしいです」
突然、そよ風が吹いてきて、この言葉はかき消されるように消えた。私は言い直そうとしたが、やめた。言葉にすることで、脆い均衡が揺らいでしまいそうに思えたのだ。
私たちは願う。今日のように、年相応の笑顔のまま日々を過ごしてほしいと。誰も傷つけず、しかし世界の不条理に対しては小さな反抗を続けてほしい──そんな、実現しそうにない小さな願いを胸に、私はただ静かにお嬢様の横顔を見つめた。




