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部屋のドアがノックされる。
「陛下、一緒にディナーはいかがですか?」
カトリーヌがお嬢様を夕食に誘った。
「いいですよ」
お嬢様は柔らかく微笑み、応じる。
「あと、私のことはカリスタと呼んでください。せっかく名前があるのですから」
「それは…」
自分の半分ほどの年齢の少女とはいえ、仕える主の名前を呼び捨てにするのは少し気が引けるようだ。だが、お嬢様は名前の呼び方で親しさを感じている。私たちは小声で耳打ちした。
「…魔法の言葉です!」
怪訝そうな顔を向けられたが、実行するお嬢様。
「…お願い、お父さん」
部屋に衝撃が走る。上目遣いの潤んだ瞳、眩しすぎる…直視できない!
「ぐはっ」
カトリーヌの声が聞こた。心中お察しします。やがて正気を取り戻したのか、口を開いた。
「では、カリスタ、向かいましょう」
お嬢様の顔がぱあっと明るくなった。うっ、眩しい…。
「街の視察はどうでしたか?」
「民の生活を身近に感じられて、良い勉強になりました。それに、ギルとも仲良くなったんです」
嬉しそうに語るお嬢様に、思わずニヤけてしまう。
「そうですか、楽しめたみたいですね!」
「ええ」
「ところで、このあと一局どうですか?」
「いいですよ、手加減は無用です」
「…!ありがとうございます」
父離れしている娘に構ってもらえた父親のような反応だ。
興奮すると鼻息が出るのは、やはり太っているせいでしょうか。
*
「…また負けました。本当に強いですね」
「いえ、今回は少し危なかったです」
お嬢様はチェスでも強い。戦場でも優れた指揮官になりそうだ。
「ああ、いつの間にかこんな時間に…」
「あら、本当ですね」
「もう寝ましょう」
「…はい。おやすみなさい」
子供扱いされたと思ったのか、不満そうに寝室に向かうお嬢様。見送ったあと、カトリーヌに尋ねた。
「カトリーヌ様、どうするのですか?」
「何をだ?」
「王家が動いているのは知っているでしょう?」
「ああ、その件か」
「旧王家派である上にカリスタ様のことを知られてしまった以上、黙ってはいないでしょう」
「だが、我が家門は王国一の武力を持つ。表立って攻撃を仕掛けるほど愚かではない。現に暗殺者を送り込むことしかできていない」
「そう…ですよね」
「なぜそんな歯切れの悪い言い方をするのだ?」
「いや、なんとなく嫌な予感がして」
「起きていないことはどうにもならん。情報は集めているがな」
「これからの動きを考える必要がありそうです」
「そうだな、近いうちに会議を開こうと思う。陛下も交えてな」
「わかりました。では、良い夜を」
「ああ」
暗闇の中、私たちは夜の警備についた。




