14
窓の外を見るお嬢様は、まだリサの影を追っているように見えた。彼女の死はお嬢様に深い影を落とし、表情を暗くしている。あれから一か月が経ち、私たちはカトリーヌから呼び出された。
「あんなことがあったんだから、護衛が必要だ。幼い頃から私が育てた優れた騎士をつけよう」
そう言われ、灰色の髪に緑の瞳を持つ男が新たにお嬢様の護衛となった。名はギルバード。瞳の色は森の木々のようで、静かに力強い。
「ギルバードです。よろしくお願いいたします」
彼はお嬢様に跪き、最上級の礼をした。
「…あなたは何歳?」
「26です」
「そう、私より10歳も上なのね。頼りにしてるわよ」
言葉に心はこもっていない。お嬢様はあれからずっと暗いままだ。私たちは内心で、少しでも心を和らげてくれればと、街での気分転換を提案することにした。
*
お嬢様と共に街へ出る。日常の空気に触れることは、国の現状を知ることにもつながる。ギルバードの他にも、変装した騎士たちがあちこちに控えていた。
空が高く昇り、腹が空いてきたところで、昼食のため料亭へ向かう。
「では、そこの料亭で昼食にしましょう!」
「え?」
暗殺の恐怖から間もないお嬢様にとって、外食の提案は意外だったようだ。疑うのは当然だが、疑心暗鬼になりすぎては世界は輝きを失う。そのことも覚えてほしい。
「うわぁ…!!」
料亭の賑わいに、お嬢様は目を輝かせ、笑い声に心を奪われていた。少しの間席で待ち、穏やかに言う。
「ウェイターはいつ来るのかしら?」
「お嬢様、民間の料亭では壁の札を見てメニューを決め、大声で店員を呼ぶのです」
ギルバードが教える。お嬢様は興味深そうに見つめ、彼の指示に従いながら注文を終えた。
その背後で、銀髪の少年の声が響く。
「おばちゃん、これ頂戴!」
灯りに照らされた銀髪がキラリと光る。見覚えのある姿に私たちは目を凝らし、警戒を高める。彼らの顔は私たち以外にはまだ知られていない。私たちの一人が確認のため近づくと、返ってきた答えは拍子抜けするほど無害だった。
「なぜ、ここにいるのですか?」
「知り合いのお店だからだよ。ここの料理なんでも美味しいんだよね」
「…お嬢様に危害を加えるつもりは?」
「今日は別の仕事の日だから、姫様には手を出さないよ」
脈や瞳孔を確かめ、嘘はないことを確認。疑念は残りつつも、安心してお嬢様の下に戻る。
*
「ねえ、さっき面白いことがあってね」
「うん」
「昨日会った人たちに出会ったんだ」
「大丈夫だったの?」
「うん、攻撃する気がないのを察したのか、あっちから去っていった。でも、もう少し話したかったな」
その言葉にネレウスはため息をついた。
「君は迂闊すぎる。少しは警戒すべきだ」
「私には君がいるから大丈夫だよ」
人気のない路地裏で、フロリスたちは太陽の光を受けながら、静かに昼食を終えた。




