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戴冠式当日。屋敷は朝から慌ただしい。もちろん、お嬢様も例外ではない。身体を丁寧に整え、顔を彩り、髪を梳いて正装を纏う。完成したお姿は、言葉を失うほどに美しい。私たちはただ息を潜め、見惚れるだけだ。
*
ステンドグラスが光を受け、儀式の間をキラキラと照らす。
「カリスタ・ユニカ・オリュンテア、あなたはこの国を豊かにし、再び黄金の時代を切り開くでしょう」
神官は祝詞を唱え、冠を被せながらお嬢様の名を刻んでいく。
「我が名にかけて必ずそうしてみせます」
その景色を間近で見られるのは、お嬢様に仕える者たちだけだ。美しい…まるで絵画の中に生きているようだ。家来たちからは感嘆の声が漏れていた。
しかし、次の瞬間、激しい音とともにステンドグラスが砕け、煙が立ち込めた。それまでの神々しい雰囲気とは一変、叫び声が会場を包み込む。私たち九人はすぐに分かれ、四人は来場者の避難に回った。残る者たちは、お嬢様を守るため戦う。
群がる賊に圧され、視界が煙で霞む。そのとき、お嬢様に迫る影を視界の端に捉えた。
「っ!しまっ…」
鈍い衝撃とともに煙が濃くなり、血の匂いが鼻をつく。足元に流れ込む血。嫌な予感が頭をかすめる。駆けつけると、倒れかけたお嬢様と血に染まったリサ、そして黒ずくめの小さい男がいた。
「なぜ、お前がそこにいる」
「おかしいですね…そんなつもりはなかったのに。少しの間でしたけど、情が移ってしまったのでしょうか…」
「今すぐそこをどけ、ルビギナ」
「嫌です」
段々とリサの声は弱くなっていく。
それでもなお、儀式は続く。豪華な衣装は血に濡れ、体には無数の傷ができていた。
(早く…早くして!)
お嬢様の声が頭に響く。
そして、淡い光が灯り、天へと登る。
「名が刻まれました!」
神官が告げる。
お嬢様は急いでリサの下へ向かおうと振り返った。
しかし、なんの気配もなく先程よりもさらに小さな男が現れ、躊躇なく、リサの首が切られた。
リサの赤い髪の毛が血と同化していく。
「リサァァァァァッ!!!」
お嬢様が悲鳴を上げる。私たちのうちの一人が駆け寄ろうとするお嬢様を止め、担いでその場を去った。
その間もお嬢様はリサの名を呼び、手を伸ばしていた。




