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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『隣人』

割を食ったのは

作者: 鈴木

 その湖で最初に人が浮かんだのは暑い夏の日だった。


 近場にある村の子供数人が涼を求めて水遊びをしていた時だ。

 初めてのことではなく、全員が慣れた様子で湖に入って暫く泳ぎ、飽きた者から一人、二人、と岸へ上がって木陰の草地で寛いだ。

 そして最後の一人が満足して浅瀬へ上がって来た時、変事は起きた。

 膝下ほどの水位の辺りで、最初、岸の者達はその子供が単純に転んだのだと思った。

 しかし、起き上がろうとしてもそれが叶わず、水から上げられた顔は恐怖に酷く歪められていた。

 助けて!引っぱられてる!と必死で叫ぶ様に数人は恐れをなして後退るが、何人かは慌てて水に入って最後の一人に手を伸ばした。だが、その手が届くことはなく、近寄る間さえなく子供の全身はあっという間に水の中へ消えていった。

 その後は助けようとした者達も直ぐさま踵を返し、岸にいた者達ともども恐怖に喚き散らしながら村へと駆け戻っていった。


 こうした状況の時、この世界では祟りだ怪異だとはならず、大概は禁域の懲罰か水棲の魔獣が棲み着いたか、と解釈される。

 禁域があまりにも縁遠ければ魔獣か、魔法――呪詛か。

 子供達から事情を聞いた村の大人達が即座に湖へ行ってみると浅瀬に件の子供がうつ伏せで倒れており、溺れた時の対処を心得ている者がそれを試みるも効果は無かった。


 こうなると原因が明らかになり、それが排除されるまでは湖に入ることは勿論、近付くことも禁じられた。

 遊び目的だけでなく、漁の為であっても。

 村人の命には代えられない、村の長がそう判断するのも至極当然ではあろうが、漁を生業としている者達には不満が残った。

 そして、湖の調査と、必要なら討伐出来る者を求めて町へ向かった村人が帰らぬ内から、こっそり湖へ行き、漁を継続していた。


 その結果は言うまでもない?

 二人目、三人目、四人目の水死体が上がったところで、残る漁師も流石に自重を選んだ。


 その後、町の役人や兵士、魔術師まで巻き込んで入念な調査が行われたが結局原因は解らずじまい。

 匙を投げられた後には通りすがりのクェジトルにさえ縋ったが解決とはならなかった。


 喉元過ぎれば何とやら。

 暫くは湖を忌避していた村人達も、一人、二人、と再び近付くようになり、さほど時間を置くこともなく全員が元通りの生活に戻った。








 * * *







「で? 実際のとこはー?」

「体調不良を自覚していなかった者が普通に溺れただけだな。最初の一人だけはたまたま湖中に開いた異界門に多少足を巻き込まれたのも原因の一端ではあるが、開扉はその一回だけだ」

「うーわー冤罪ぃー」


 誰に対する? ――――魔獣だ。


 件の湖には関わった者達の推測通り魔獣が棲みついていた。

 小さな(・・・)オオサンショウウオ相当の。

 魔獣である為、状況次第で無害とは言えないが、この連続溺死事件に関しては完全な冤罪だった。


「でも特定には至らず憶測で終わっているんですよね?」


 カナンの突っ込みの情報源(もと)はアウレリウスと共に[ホーム]へ遊びに来た<あちら>の精霊達だ。


「まあ、そうだが、調査途中で煩わしくなり住処を変えているからな。魔獣が好んで選んだ行動とはいえ、魔獣がいるという仮定で行われた湖へのちょっかいが原因だ、冤罪被害の末、と言えないこともないだろう」

「村の連中にとっちゃあ何がきっかけで "害" になるか分かんない魔獣がいなくなって万々歳っぽいのもモヤるしなー」


 なるほど、そういう見方もあるか、と魔獣の冤罪主張の是非に拘りのなかったカナンは、あっさり受け入れて頷いた。

 正直、どちらでも良いと言えば良い。










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