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『リュック 沈黙の罪』  作者: 泉水遊馬
第2部:無関心は共犯者
8/10

第3章:鏡の向こう

10月15日、勇気(4歳)が柴田彰の暴力で死に、森山綾が「椅子から落ちた」と嘘をついた。

警察署で見たノートの「たすけて」が、耳から離れない。


編集室で、佐藤が煙草をくわえ、真琴に声をかけた。

「真琴、面会は取れたか?」

真琴は頷き、言った。

「はい、森山綾さん会います。」

佐藤は目を細め、言った。

「森山綾の心は深いぞ。読者に突き刺せ。勇気のリュックを忘れさせるな」

真琴は拳を握り、警察署の冷たい廊下を進む。




警察署の面会室。ガラス越しに、森山綾(26歳)が座る。

青ざめた顔、俯いた視線。弁護士(40代、女性)が隣に立ち、時間を計る。

真琴はマイクに向かい、丁寧に切り出した。

「森山さん、面会の了承ありがとうございます。。勇気君のこと、教えてください」

綾は手を震わせ、言った。

「…勇気、ごめん。私のせいで…」

声は途切れ、涙が頬を伝う。真琴はノートを開き、勇気のリュックを思い出す。「たすけて」と書かれたノート。綾の後悔が、胸に響く。

真琴は慎重に問うた。

「10月15日、なぜ『椅子から落ちた』と言ったんですか?」

綾は目を伏せ、言った。

「彰を守りたかった…。彼、怒ると怖くて。私、彰がいなきゃダメだったから」

真琴は過去の証言を思い出す。綾の愛情不足、容姿コンプレックス。真琴は問うた。

「柴田さんに、なぜそこまで?」

綾は唇を噛み、言った。

「彰は私を見てくれた。『お前はこれでいい』って。初めて、必要とされた」

ガラス越しに、綾の目が潤む。真琴はペンを握る手が震え、ノートに「依存」と書く。


真琴は第2章の美穂の証言を思い出し、踏み込む。

「森山さん、自分を『醜い』と思ったこと、ありますか?」

綾は顔を覆い、言った。

「…いつも思ってた。鏡、見れなかった。母さんに『地味』って言われて、学校で『ブス』って笑われて」

沈黙が部屋を満たす。弁護士が時計をちらりと見る。綾は続ける。

「彰だけが、私を認めてくれた。勇気には…冷たかった」

真琴は勇気のノートを思い出し、胸が締め付けられる。「たすけて」は、綾にも届かなかった。

真琴は問うた。

「勇気君の『たすけて』、知ってましたか?」

綾は嗚咽を漏らし、言った。

「…ノート、見たことあった。でも、彰に逆らえなくて。勇気、ごめん…」

真琴はリュックの写真を握り、涙が滲む。綾の自己否定が、柴田への依存を生み、勇気を孤立させた。

綾はガラスに手を押し付け、言った。

「私、勇気を守れなかった。醜い私が、母でなければ…。」

弁護士が「時間です」と告げ、面会は終わる。



11月中旬、編集室。真琴は勇気のリュックの写真を見つめ、綾の言葉を反芻する。

「彰を守りたかった」

「醜い私が」

綾のコンプレックスが、嘘と無関心を生んだ。佐藤が近づき、言った。

「真琴、面会はどうだった?」

真琴は答えた。

「森山綾の嘘、コンプレックスからくる自己否定。連載で勇気君の声を届けます。」

佐藤は煙草をくわえ、言った。

「いいぞ。森山綾の心を暴け。読者に無関心を突きつけろ」


真琴はペンを握り、原稿に書き始める。

「森山綾、26歳。彼女の嘘は、勇気を救えなかった。『自分は醜い』という心が、柴田への依存を生み、無関心を重ねた」

リュックの刺繍が、胸に刺さる。

「無関心は共犯者だ。勇気君、君のリュックで、俺は戦う」

真琴は決意を新たにし、連載の次のステップへ進む。



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