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五秒で考えた設定で書いてみた

最底辺魔法使いが出世するために必要なたった一つの魔法

作者: ごっこまん

 あんた、見る目がある。


 出世願望持ちで魔法使いなら、俺に相談するのは大正解って訳だ。


 あんたの言う通り、俺は大した魔法使いじゃない。多分、あんたより腕は劣っている。要領はあんたより百倍良いから、あんたの千倍恵まれたポストに就いてんだけど。


 おいおい、そんな顔すんなよ。笑ったことは謝るって。


 まあ聞け。


 まず、あんたの固定観念を崩さにゃならねえ。


 一つ聞くけどよ、あんた、優れた魔法ってのはどんなだと思ってる?


 何の前触れもなく対象を殺す魔法? 病を防ぐ魔法? ほう! 幸運を引き寄せる魔法! 良いぞ、模範解答だ! いいや、ちゃんと褒めてるぜ! 模範的に答えられるってのはな、巷で天才と持てはやされる連中より優れた魔法使いの証拠だ!


 だが、あんたが出世できない理由も、良ぉくわかった。


 確かにあんたの考える魔法は、どれも優れている。対処不能の死の魔法、不調を未然に防ぐ魔法、更に恩恵が向こうから勝手にやってくる魔法。どれも俺が使いたいくらいさ。


 て言うか、かけてくれよ。死ぬやつ以外。


 これから話す内容次第ってか? したたかだねえ。出世したいなら、そうこなくちゃな。


 じゃあ本題だ。


 あんたが言った魔法には欠点がある。効力の問題じゃねえ。アピール力が皆無。どれも魔法の効果かわかんねえ、って点が出世向きじゃねえのよ。


 あんたの言った魔法を使ったとしてだ。自然死と魔法による死をどうやって見分ける? 単なる健康体と魔法による予防ってどう違う? 幸運なんて魔法だろうが本人の資質だろうが測りようがねえや。


 不満そうな顔だな。言いたいことはわかる。技術ってのは、受けた恩恵が直感的にわからないものほど優れてる。持論だが、あんたもその口だろ?


 ただし、技術を使って出世してえなら話は変わる。


 世の中、賢いヤツとバカ、どっちが多いかって話だ。


 出世は詰まるところ、他人から集めた評価を報酬に転嫁する錬金術さ。どれだけすげえ職人芸でも、パッと見で威力を思い知らせるものじゃねえと、世の中ほとんどを占めるバカは理解すらしねえ。


 ここだけの話、そういう類の連中は、自分自身のバカさ加減に悩んだことすらねえ。何もわかってないことを、他人の不親切になすりつけることだってある。ヤツら、手の施しようのない脳萎縮病患者さ。


 わかるヤツにはわかる。まあ、それでも満足はできるだろうな。だが、あんたはそれじゃ、満足できなかった。だから俺に相談しに来た。だろ?


 良し。じゃあ、ヒントはやった。さっきあんたが言った優れた魔法、あんたなら、どうやってバカにでもそのありがたみを叩きこんでやれる?


 ……まあ、そうだな。今の話で閃くくらいなら、とっくにあんた自身で解決できてたろうな。


 じゃ、特別サービスだ。いくつか俺の意見を教えてやる。


 まず、死の魔法は黒い煙を出す魔法と抱き合わせる。煙に触れたヤツから死ぬように見せかければ良い。別に本当に触れてなくても何となくでやりゃ充分さ。


 魔力の無駄? 出世とどっちが大事だ?


 ……よーし、良い子だ。


 視覚効果、これはかなり効く。見てるヤツらが全員ブルッちまうようなスペクタクルが、魔法の評価になるって寸法さ。それに、この方が殺したい相手にも効く。煙を避けさせて、一旦安心させておいてからの、謎の死。敵は大混乱。どうだ? 案外無駄も無駄になりきれねえもんだろ?


 病を防ぐ魔法は自分にだけ使え。で、他人には、病気にかかった後、治療する魔法をかけるんだ。困っているときに助けてもらった方が、人は感謝しやすい。本当に優れているのは風邪の一つもひかせねえような医者だが、そういう医者をバカは評価しない。


 幸運を引き寄せる魔法も、不幸を引き寄せる魔法と、それを打ち消す魔法の抱き合わせだな。できればお守りみてえに持ち運べるようなものにかけると良い。お守りのあるなしで効果が実感できるなら、それは本物だってバカは簡単に信じる。


 そう! 全部子ども騙し! 良い気づきだ!


 笑えるだろ? 世間ですげえと思われている大多数は本物の実力じゃない。そんな本物はごく一握りで、大多数は子ども騙しを有り難がってるって訳だ。


 納得いかねえ、って顔だな。何年か前、俺も鏡を覗いたらそんな顔を見た気がする。


 だが、結果は歴然。今や俺は割と恵まれて、こうして人に教えを乞われる立場になった。それが何より、この手法や着眼点を正当化していると思わねえか?


 良いものは良い。悪いものは悪い。だが、必ずしもそう評価されない。ぶっちゃけこの非対称性は社会をゆっくり自殺させる原因だから放置したかねえんだけど、俺一人に何ができる、って話だろ?


 ならまあ、精々、利用させてもらうってだけよな。


 だが、この立ち回り方も、そう悪いってばかりじゃねえ。自慢だが、実際、俺には魔法を見る目がある。セコいことして得たポストだが、物申せる立場になれたおかげで、こうして優秀な人材を引き抜いて、現場で活躍させてやれている訳だからな。


 俺のように上辺だけの評価じゃねえ。中身をお上にわからせてやれるってのは、存外爽快なもんさ。


 あんたが期待した内容じゃなかったようで申し訳ねえな何か。ま、こんなんでも何かの参考になりゃ御の字だ。わざわざ足を運んでくれてありがとう。俺は楽しかったよ。


 じゃあな。


 ……おい、戻って来い。


 バカ。何だその顔は。素直に帰るヤツがあるか。


 うーん、こりゃ、あんたの出世は難儀しそうだなあ。


 あのなあ、魔法ごとに毎度、違う視覚演出考えて出すのか? そんなの先にあんたが参るぞ。


 実のところ、出世のために覚える魔法は、たった一つで良い。たった一つ。これさえあれば何でもすごく見えるって優れものがある。


 考えてみろ。多分、あんたも見たことがある。そして内心、その魔法を見下しているはずだ。


 考えろ……ゆっくりで良い。自分で考えてみろ。俺はもう手助けしねえ。まさか、って? 何だほら、言ってみろ。


 ビンゴ! “空中に魔方陣を展開する魔法”! 正解だ!


 あんな見かけ倒しのマヌケなクソ魔法はねえ! 考えた野郎は出禁だろ! マジで! なんせ考えると脳みそがアイデアじゃなくてウンコを出しやがる奇病にかかってんだからな!


 俺もあの魔法嫌い! 大っ嫌い! けど一番使ってる! 魔方陣の要らねえ魔法にすら使ってんだかんな! ファック! 俺の部下も全員だ! 魔法のお披露目にゃ、全員に使わせてる!


 だってよ、あれ一つありゃ「これからえげつねえ魔法使うから見てろよ~!」ってのが一目瞭然な訳! でも魔法のことわかってる連中からすりゃ、あんな何の意味もねえ魔法使うくらいなら、さっさと本命の方の魔法使えって思うだろ! 思うよな⁉ そうだよな⁉


 要はあれ、使い手が一番精密に扱える属性の魔法を使って、特定の図形を維持するって宴会芸なんだよ! かける労力に見合った見てくれにはなるが、それ以上の効用はねえ! 言うなれば“使いたい魔法を使うために使う魔法”だぞ! どう考えても二度手間だろ! ダセェだろ!


 そんなしち面倒臭え手間暇かける余裕があるなら、本命の魔法練る時間に回しゃよほど効率的だろうが!


 ……だけど、これ、魔法知らない人にはウケるんだよ。派手だから。


 で、何がどうなって魔法になるか、肝心なところがわかってねえから、見た目の派手な方が選ばれる訳だ。


 悲しいねえ。物事の流れがわかってない連中が、俺たち専門家の足を引っ張って。こっちはすぐに荷物を届けてやりてえのに、やれ箱がどうだのリボンがああだの言ってくる。


 だけど、これが出世の秘訣さ。恩恵を受ける連中の知能指数を最低と見積もって、脊髄反射で理解できる次元に格下げして物を売る。箱とかリボンとか、中身と無関係なところこそ気を遣うんだ。たとえ中身の品質が落ちようとな。


 こう正直に打ち明けると、低能ども一丁前に怒りやがるが、これにもコツがある。


「私の魔法は一級品です。すぐに効果を実感できますよ」ってな。


 ヤツら、納得すりゃ何でも良いものだって思いこみたがるんだ。傑作だろ。


 これが俺の導き出した出世の秘訣さ。


 気に入らねえなら、こことは別のとこを探す方が良いぜ。ここは“すぐに、直感的にわかるもの以外、相手にできねえ呪い”にかかってる。本当の呪いなら解くこともできるが、厄介なことにこれは人心さ。


 人間、結局自分の経験と勘と好き嫌いをこの世で一番信用しやがる。そこを越えて自分の外に精神の枝を伸ばさねえ限り、クソみてえな偽物に踊らされる。


 俺が出世したのも、そのおかげって訳。


 ちなみに、この話を聞かせたのは、あんたが初めてだ。この意味がわかるか?


 な? わかってても、わかりやすく、特別な感じがするだろ?

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