21-3:すっかり丸くなってしまった悪魔たちの非道な暴力をほっこり見守ってみた!
神を認めたくないヨッシーもルチを救った天照大神には信仰心を抱いてしまう。
世界に根付く堕天使への偏見と差別は未だに強く、先日ついにその現場を目撃してしまった。
その描写はここでは省くが、省かざるをえないほどに胸糞の悪い光景だったことは記載するべきだろう。
ルチはそうした差別と偏見の解消を目指して、光を得てなお黒い肌と片翼のままで吟遊詩人を続けており、その成果は少なくともルチの周りでは既に現れていた。
「ここの飯うめぇな!」
「この豚足の煮付けとか、12歳以下のガキの足よりうめぇぞ!」
「これはなんていう食い物だ?
5歳以下のガキの生き肝よりうまいんだが」
「アンキモと言うらしいね。
不思議な呪文みたいだ」
「アンキモ! アンキモ! アンキモ!」
店の一角は平然とソロモン72柱の悪魔たちと堕天使たちに占拠されており。
「あそこのおじさんたち、いつもたのしそうだねー」
「しっ、あまり見ちゃ……」
「おいおい坊主、あんまり見ると食っちまうぞ」
「ひっ!」
「あ、あんたたち! 私の子に手出しはさせ……」
「はっ! 無力な人間の女風情が!
そぉれ! 食っちまえぇ!」
「あーーーー!」
伸びるフォークが子どもの皿のミートボールを次々に奪い取る。
「ぎゃはははは!
そら、てめぇは貧乏人の下賤な食い物でも食ってな!」
「やめろー! おじさんたちやめろー!」
ニンジンとピーマンとジャガイモが皿に投げ込まれる。
中世ヨーロッパの時代、これらの野菜、特に根菜類は下賤な食べ物として扱われていた。
天により近い食べ物ほど神聖とされる文化があったためだ。
イメージ上のヨーロッパ貴族が肉ばかり食べているのはそのためだろう。
ついでに言うとこの世界のピーマンはビニールハウス栽培技術がまだ無い故の超高級品である。
「野郎ども! そこの生意気な女の喉を犯してやれ!」
「や、やめてください! そんなもの、飲め……もごぅ!」
ねじ込まれるソーマのボトル。
お値段1本18万円。
健康効果は抜群だ。
「おら、全部飲み干すんだよ!
こぼすんじゃねぇぞ!
健康に長生きしろよぉ人間!
ガキが『ママー! 死なないでよママー!』って泣いちまうだろぉ?
ぎゃはははは!」
「坊主! 母親が目の前で薬漬けにされ恍惚の表情になってくのはどうだぁ?
てめぇも肉ばっか食ってねぇで野菜も食え野菜も!
店員! こいつに罪の象徴をくれてやれ!」
メロンパフェは罪の象徴。
「当然、野菜も大盛りでな!」
「ははは! ぼうや、ママのおっぱいの味はどうだい!?」
木に成るものが果物で、苗を植えてから1年以内に収穫するのが野菜。
メロンは立派な野菜である。
生クリームも特盛だ。
「そこまでにしておけ」
「ひでぶっ!」
4本足の巨体が4本の手で同時に4人の悪魔たちを殴りつける。
蜘蛛の悪魔、ソロモン72柱の頂点、悪魔王バエルだ。
「やれやれ。
貴様の子飼いは品性を疑わせる」
「言ってくれる。
お前の弟子も似たようなものだろう」
「なんだと……?」
売り言葉に買い言葉。
売られた喧嘩を即決で購入したプリング師匠は、今日の誕生日のために用意したプレゼントを机の下にそっと置いてから。
「久々にキレちまったよ。
ステージに上がれ」
「上等だ」
大歓声に沸き立つ店内。
すかさず店員がBGMとアナウンスを流し始める。
「♪~バエル! ボンバッイェッ! バエル! ボンバッイェッ! バエル! ボンバッイェッ!」
「さぁ始まります! 今夜早くも4回目のマッチアップ!
異世界剣闘技王者決定戦、赤コーナーから入るのは直前にタイトルを奪ったばかり!
ソロモン72柱王者、悪魔王バエル!」
――うおおおぉぉおぉぉお!
悪魔たちの大歓声が店中に響く。
その中には口のまわりに生クリームのヒゲをつけた先ほどの子どもの姿もあった。
「♪~燃えろ燃えろ闘志よ燃えろ! ダッシュダッシュ未来へダッシュ!」
「対するは青コーナー! 元世界最凶エルフ騎士団団長、エルフの剣神プリング!」
――ぶぅぅぅううぅぅううう!
野太い悪魔たちのブーイングがひときわ大きく響くが、その後ろでは。
「きゃーっ! お師匠様―!」
「お美しいですわー!」
うちわを両手に応援する天使たち。
そのうちわには「師匠無理しないで」「森の香り」の文字が派手なフォントで描かれている。
さらにはソーマのボトルを片手で振り回して応援する母親の姿もある。
このタイミングでどちらが勝つかの賭けも開始され、店内の水晶掲示板にオッズが表示されている。
先ほどの試合での完封の記憶が新しいのか、人気はバエルに偏りプリングのオッズばかりが伸びていった。
『時間無制限一本勝負! 勝敗はギブアップか心停止まで!』
「お互いこの歳になると蘇生魔法もなかなか響くだろう?
苦しくなったら素直にギブアップせい。
戦いの幕はここに切って落とされる」
「お前こそ死の苦しみを知っていて先ほどは何故ギブアップをしなかった?
何故戦い続ける? そんなにも一筋に、嗚呼、一筋に……」
「知れたことを。
それは貴様も同じだろうに」
「ふっ、そうだな。
戦いが……死合が……」
――楽しいからだ!
「バエルだ! ダビデの魔術師ソロモンの魂!」
「剣神プリング! 一騎無尽!」
『死合、開始!』
こうして運命のGONGが響く。
百物語の続きはこの後。
夜はまだまだ長いのだ。




