2-1:そもそも霊感ってなんなのか俺達の解釈で解説してみた!
3人がトンネルに突入してまもなく。
後に阿鼻叫喚となる動画のコメント欄の様子を知る由もなく、ただ暗く狭く雰囲気だけのトンネルを進んでいた。
こんなチャンネルを運営しているだけのこともあり、3人はそこそこには心霊スポット巡りの経験があり、恐怖に強い耐性を持つ。
もはや雰囲気だけで怯える素人ではないのだ。
ここで3人の霊感の有無について軽く触れよう。
そのために、数ヶ月前に公開された「街で幽霊の数数えてみた! 霊感って何なの!?」というタイトルの動画から一部を抜粋する。
「いつも言ってるけどさ~
幽霊の正体見たり枯れ尾花でバカにする人の方が無知だよね~ってのが私の主張なんだけど、ここで枯れ尾花に幽霊を見る人こそが私の言うところの霊感だと思うのよね~」
「あぁ、うんうん。
俺もなんとなくそういう認識!」
「どういうことだ?」
民俗学担当のサダコ姉と怪談担当のユウキが意気投合する中、科学担当のヨッシーは今ひとつピンと来ない。
この感覚をどう伝えたものか悩んだサダコ姉は、1枚の画像をヨッシーに見せる。
それは心霊写真でもなんでもない、ただの枯れ葉の山の写真だった。
「これは?」
「ヨッシー、ここに何か映ってるかわかる?」
「うーん……ただの枯れ葉の山に見えるが……」
「ちょっと見せてくれ」
写真を前に悩むヨッシーの横からユウキが顔を突っ込む。
スマフォの画面を傾けるサダコ姉。
数秒の後でユウキが笑い出す。
「あぁ! 見つけた!」
「わかっちゃうか~」
「むぅ……これは心霊写真なのか?」
「いや、全然。
でも、霊感が何かを説明するには確かにいい写真かもな」
「まるでわからん……本当にただの枯れ葉の山なんじゃ……」
「はい、じゃぁ答え合わせです~、ここ~。
ここに、アケビコノハがいま~す」
・アケビコノハ
通草木葉蛾、学名Eudocima tyrannus. 落ち葉そっくりに擬態するチョウ目ヤガ科の昆虫。
「なるほど、擬態か。生物学は門外漢だからな……
特に昆虫はあのファーブルが『何故昆虫の研究しかしないんですか?』と問われて『昆虫の研究だけで時間が無限に持っていかれるからだ』と答えたような沼だからなぁ。
まるで触れていない僕の苦手分野の1つだ。
で、これが霊感とどう関係してるんだ?」
「じゃぁユウキ君はどうしてこの蛾を見つけられたのかな~?」
「そりゃ俺が擬態する昆虫も居るって知識を事前に持っていたからだな。
それで『いるかもしれない』って思って探せたんだ。
正直この前提がないと、写真見てもわからないだろうさ」
「そういうことね~。幽霊も同じよ~。
だから霊感が無い人は幽霊が見えてないんじゃないんだよ~。
幽霊に気付いてないんだよ~。
霊感とは、幽霊を知ってること、幽霊を受け入れることなのよね~」
「あぁなるほど、そういうことか」
ようやく言わんとすることがわかったヨッシーだが、今ひとつ納得には及ばないような不満が幼馴染の目から見える。
そこでサダコ姉はさらに続ける。
「同じようにさ、繁華街歩いてみたりするとしてね~。
外国の人を探して数をカウントしようって言えば普通にできるよね~。
でも、その時の数ってその人の観察眼によるわけでしょ~。
肌の色が違えばまず外国人カウントできるけど、中国やベトナムの人とかはカウントし損ねたりするかもだし、逆にちょっと顔の濃い日本人を中東の人かなとかカウントしたりするかもしれないわ~。
ここで正確に外国人の数を判断できるできないの差が、霊感の強さ弱さだと思うわけよ~」
「なるほど、それはわかりやすいな」
「最近は流行り病も落ち着いたし、繁華街で外人さんよく見るようになったわ~。
幽霊さんも見るし~」
「うんうん……うん?」
ようやく納得したヨッシーの隣で頷いていたユウキが変な声を出す。
「新宿歌舞伎町とか20人に1人は幽霊さんよ~」
「まじで!?」
「サダコ姉は見えてるのか……ていうかユウキ、お前見えないのか?」
「……正直幽霊とか見たことも感じたこともない」
「そんなんでよくこのチャンネルの怪談担当を名乗れるな」
「うっさい! 怪談師はむしろそういう人の方が多いぞ!
実際に見えたら怖くて怪談なんか語ってられないっての!
そういうお前もどうせ見たこと無いだろ!?」
「駒場キャンパスでどう考えても幽霊にしか思えない存在と出会ったことがある」
「まじぃ? ていうか、見てるじゃん幽霊!
なんでなのに認めてないのお前!」
「怖いからだ。
というか幽霊否定派の科学者のほとんどがそうだぞ。
認めてしまったら怖いから、これはこういう現象だと説明しようとする。
人間は未知の存在が一番恐ろしいんだよ」
「あ、それはちょっとわかるぞ。
やっぱ怪談はわけのわかんなさが最高だよな!」
ということで。
サダコ姉は霊感が強い。
ヨッシーは霊感が弱い。
ユウキは霊感が無いというのがこの3人の状況だった。