15-2:役割を忘れた馬鹿野郎を殴ってみた! これが俺達の「オカルト」だ!
「どうした? なんか気弱じゃねぇか。らしくない」
「……なら、ユウキ。
今更だが、お前は幼馴染の僕をどう見ている?」
「どうって、まぁ、方針がぶつかることもあるが、良い幼馴染で親友だと思っているよ。
それに、なんやかんや俺達の中で、お前が一番オカルト好きなこともな」
「隠そうとしても無駄か」
「ガキの頃あんなにきらきらした目で宇宙人だのネッシーだの言ってたお前を俺は忘れちゃいない」
ヨッシーは悲しげな表情で遠くを見る。
手を繋いで先を歩く3人とはだいぶ距離があいてしまった。
「僕はさ……幽霊や宇宙人を、証明したかったんだよ」
「…………」
ユウキは無言で先を促した。
こいつとの付き合いは長いが、こいつからこういう話をしだしたのは今までにないことだ。
なんとなく、そうだろうなとは知っていたが。
「案の定、同じ科学の道に進む研究者達の多くはオカルトに否定的だった。
それはいい。そういうものだという覚悟も出来ていた。
それでもどうにかオカルトを解明してやるというやる気もあった。
量子力学、素粒子物理学、ヒッグス場理論、ダークマター解釈、超ひも理論、水情報ストレージ理論……幽霊を科学的に証明する手段は、様々な方向から考えられた。
幽霊の正体を解き明かすのも、時間の問題だと思っていたよ。
しかし……現実はそう甘くなかった。
何故かわかるか?」
「やっぱ科学者仲間からの嫌がらせとかあったんか?」
「逆だよ。
僕の前に立ちはだかったのは、インチキ霊媒師や自己顕示欲の強いメンヘラ、そして、流行に便乗した怪談師達だった」
「それは……」
言わんとすることが、ユウキには理解できてしまった。
「幽霊を信じ、居ると疑わない彼等は、口々に僕に幽霊を見せようとしてきた。
だが、どんな機器を利用しても、彼等の言葉を真実だと証明できない。
そんな中、唯一統計的に有意なデータを返した機械があるんだ。
何かわかるか?」
「……脳波測定機だろ。
よく言う、嘘発見機」
「そういうことだよ。
尤も、脳波で嘘を完璧に見破ることはできないとなっているがね。
そういうやつらが雨後の竹の子のように会いに来る毎日で、僕は理解したんだよ。
何故科学者がオカルトを嫌うのか。
何故誰もオカルトの研究を行わないのか。
あえて言わせてもらう。
現代のオカルト研究を真に妨げているのは、オカルティストだ」
「オカルティストの俺の前で痛いところをつきやがる。
だがこちらもあえて言わせてもらうと、オカルトは怖ければいい、オカルトは非科学的でいい、オカルトはエンタメでいいと思っているライトなファンたちに俺達は支えられている。
今のブームがなければ、俺はもっとつまんねぇ仕事をしてたよ」
「それもわかっているつもりだ。
だから僕は、オカルトを解き明かすため、オカルトを否定し、オカルトを楽しむやつらをこの世から消し去ると決めた。
お前からこの動画チャンネルの誘いが来たのは、その頃だよ」
「そういうことだったのか……」
それがこいつの、口癖のように「僕の立場」と言う理由で、不人気と煽られても複雑な解説をやめない理由か。
「それで? 今このタイミングでその話をしたのは何故だ?」
「怖いんだ」
「幽霊が?」
「違う。いや、それはずっとそうなんだが。
今怖いのは、ルチさんだ」
「彼女の嘘を暴いてしまう自分が、じゃねぇの?」
「……お前には嘘をつけないな。
そのとおりだ。霊媒師。
そんなオカルトありえない。
モンゴルで社会問題化してるって話がまさにそうだ。
奴らの目的は金と自己顕示欲。
より危険なのは後者だ。
金は最悪だまし取られて終わりでそれでいい。
自己顕示欲で動くやつらはな、平然と間接的な殺人教唆までするんだ。
サダコ姉の雨乞いの話、聞いたろ?」
「あぁ……」
――12歳以下の少女の心臓とか平然とお出しされるわ~
「もし彼女がインチキ霊媒師なら、僕はその嘘を暴き、白日の下に晒さなければならない。
それが僕の役目だ。
僕はオカルトを証明するために、オカルトを完全否定すると決めたんだ。
しかし、もしもそうなったら、盲目の彼女はどうなる?
ただ盲目なだけじゃない。
何かしらの理由で堕天し、決して良いとは言えない立場にある彼女は。
経営するという孤児院の子どもたちは、どうなる?」
「最悪死ぬな。お前に殺された形になる」
「そうだ。どう取り繕ってもそうなってしまう。
そうなるくらいなら、僕は……」
そう言いかけたユウキの正面から。
「歯ぁ食いしばれぇ!」
ユウキの拳が、全力で殴り飛ばした。
頬に手をあて、尻もちをつく姿勢のまま幼馴染を見上げるヨッシー。
「ユウキ……」
「ざっけんな! お前らしくない!
そんなこと言うなら、今すぐこんな動画チャンネルやめちまえ!
うちのチャンネルでのお前の役割は、オカルトを否定することだろうが!
どんな企業から案件もらっていくら金を積まれたって!
どんな登録者数の多いチャンネルからコラボを打診されたって!
俺達は嘘を言わねぇ! オカルトが、好きだから!
オカルトが、大好きだからだ! そうだろう!?
それが異世界オカルトチャンネルだろう!?
違うか!? 違うかぁ!?」
「それは……」
「殺せよ!
あのメスガキが本当に嘘つきのメンヘラなら、殺しちまえ!
お前はそれでいい! 俺達もお前を絶対に糾弾しない!
どんなアンチから誹謗中傷コメがつこうが、全力でお前を守ってやる!
動画収益から裁判費用出してでもクソコメつけたやつら全員に情報開示請求出して、お前の目の前で土下座させてやる!
だがな……!」
感極まったユウキは涙を流しながら、祈るように怒りの叫びをあげる。
「ルチさんは本物だ!
怪談師として同じステージで戦った俺だからわかる!
本物だ! 絶対に本物だよ! 俺はそう信じたいんだ!
いいか!? 異世界転生だってあったんだ!
だからな! 幽霊は、いる! 霊媒も、ある!
オカルトは! ありまぁぁぁぁす!」
街を離れ風が吹きすさぶ丘の上で。
ユウキの叫びが、響いた。
一方その頃。
「にゃんこにゃんこ! よーしよしよし!」
「この三毛はかなり人馴れしていますね。
かわいいです」
「サダコお姉様! 見てください!
このにゃんこは肉球も触らせてくれる神にゃんこですよ!
あれ、サダコお姉様?」
2人で猫をもふるキリヤとルチ。
にゃんこの神対応に思わずキリヤがサダコ姉に振り向いた時、そこにはふわふわとウェーブのかかった長い髪を風にたなびかせつつ、どこか悲しそうな顔で片手を耳元にあてるサダコ姉の姿があった。
「どうか……されましたか?」
「えっ、ううん、なんでもない。
なんでもないわ。
ただ……男の子は、いいなって。
私も、2人と同じ……男の子に、生まれたかったな……
な~んてね~☆」
そう作り笑いで答える、サダコ姉の後ろから。
「ルチさん!」
息を切らせて走ってきたヨッシー。
キリヤの目からは心做しか頬が腫れているように見えたが、虫歯だろうか。
それより、その手に握られているのは。
「ヨッシーさん? どうされましたか?」
「はぁ……はぁ……っ」
ルチの目の前で全力疾走の息を整え、決意に息を飲み。
「僕、猫耳萌えなんです。
この猫耳をつけてください。
あなたなら絶対似合います」
そのあまりにも突然の性癖アピールに、キリヤは3歩ほど引いた。
「あれ、何?」
やれやれという顔で後ろ手に頭をかきつつ追いついたユウキを、乾いた笑みを浮かべたサダコ姉が振り返る。
「まぁ、その……あいつも溜まってるんだよ。いろいろな」
「ふーん……」
指を顎の下にあて、少し悩んで。
「ところでユウキ君。
ユウキ君は、私が『本気でぶって。もっとぶって』ってお願いしたら、ぶってくれる?」
「え゛っ」
何故自分は突然のセクハラを受けているんだ? こいつも溜まってんのか?
「い、いや、そんなの、できるわけないだろ、サダコ姉は一応なりにも女の子なんだし、俺達ずっと幼馴染だし……
ていうか、サダコ姉、ドSだよな?
そういう性癖じゃないと思うんだが……」
「…………」
求められたものとまるで違う回答が返され、サダコ姉はユウキの脛をブーツで蹴り上げた。




