12-2:メカドラゴンと初戦闘してみました!
「チタタプ~」
「チタタプ!」
サダコ姉と共に楽しそうに肉を叩くキリヤ。
その後ろではお腹をすかせたユウキが足をばたつかせている。
「サダコ姉―、ごはんまだー?」
「いいこに待っててくれないと土粥よ~?」
「待ってまーす」
と、その時。地底湖から波の音が響いた。
「来たか……!」
坑道を破壊しながら里に姿を表すメカドラゴン。
前回破壊され穴があいていた腹部には溶接の跡が残り、完全に修復されている。
しかも、それに加えて。
「2匹居るだとぉ!?」
「自己複製……! 都市伝説は本当だったのか」
だが今回の襲撃は前と間がほとんどあいていない。
ドワーフ側の対策も万全だ。
「前と違って間がない! これなら同じ武器が通じるはずだ!
ドリルミサイル! 撃てぇ!」
前回メカドラゴンの装甲を貫いたドリルミサイル。
その斉射がメカドラゴンに命中し、前と同様に体中に巨大な穴をあけた。
「よし! 効いてるぞ! 撃て撃て! 撃ちまくれぇ!」
メカドラゴンの巨体が、倒れる。
歯車が組み合わされた内部構造が露呈し、ばちばちと動力炉からのエネルギーが漏れている様子も確認できる。
「中身が気になるな!」
「あ、危ないです! 近寄らないで……」
と、キリヤが声をかけた直後。
メカドラゴンが大爆発。
激震が洞窟内を襲う。
「ほらみろぉです!」
「くそっ! 後で部品拾い集めるぞ!
もう1匹だ! やっつけろぉ!」
大砲の爆音が響く。
飛び出したドリルミサイルがメカドラゴンに迫る。
その時、キリヤの目は確かにそれを見る。
「……メカドラゴンが、嘲笑った?」
直撃。
轟音。
ドリルの回転音と金属を抉る甲高い音が響く。
しかし。
「は、弾かれた……だと……?」
2匹目のドラゴンの逆鱗には、Ver9.8の刻印が刻まれていた。
ぐわんと動く長い首。
カメラアイが、溶鉱炉の前のザク親方を捉える。
(溶鉱炉を破壊しても無駄……ならば。
二度とハンマーを振るえない体にするまで)
メカドラゴンの制御AIが高速で未来の予測演算を進める。
(レーザーメスで片足を切断。
念の為左腕も切断します。
他のドワーフ達も、同様に。
生産効率の低下に関しては、プラントの場所をリークすることで補えるでしょう。
私はもう、バカなことでみなさんが滅ぶところを見たくないのです。
責任は、私が取ります)
翼を開き、洞窟内を飛翔するメカドラゴン。
「まずい! また溶鉱炉が!」
駆け出すユウキ。
何もできないとはわかりつつも、自分だけ危険から逃げることもできない。
「親方さん! 逃げてくれ!」
「むぅ……!」
(まずは片足)
甲高い音と共に目から放たれるレーザーメスの斬撃が、親方の片足を切断した。
「ぐぅっ……おのれぇ!」
「親方さん!」
(続けて左腕も切断します)
再びメカドラゴンの高速未来予測演算が開始される。
片足ではもうまともに動けない。
なにより生命体にとって痛みは死を意識させ恐怖は体を硬直させる。
動けない。
動けるはずがない。
ならば、左腕の切断も簡単なことだ。
(ごめんなさい、親方さん)
「ざっけんなごらぁぁぁぁああああ!!」
その無茶無謀な動きは、演算では未来予測されなかった。
(あ……)
レーザーメスが、ザク親方の胴体を真っ二つに引き裂いた。
「親方ぁぁぁぁああああ!」
(あ……ああ……私は……未来予測を、間違えて……ああああああああ!!)
目に見えて狼狽えるメカドラゴン。
その苦しむような姿に思わずヨッシーは目を伏せた。
「よくも親方さんを! 騎士として許せません! 一刀の元に斬り伏せ……」
「キリヤさん! 抜くな!」
ヨッシーの叫びにキリヤの手が止まる。
何故止めるのか理由はわからない。
けれど、あのヨッシーさんがそう言うなら、必ず理由があるはず。
ならば。
「これなら!」
溶鉱炉の脇に投げ捨てられた失敗作の山から2本を両手に取り、キリヤが跳躍する。
「エルフ二刀流……朧の月! 蒼と緑!」
両手に構えた剣をメカドラゴンの首に向け左右から振り下ろした。
が、しかし。
響いたのは甲高い嫌な音。
「ああああああああ!! 折れちゃいましたぁぁぁぁああああ!」
「キリヤさん! 引け!」
着地し、地面を蹴って後ろに飛んで距離を取る。
攻撃後の隙をいかに消すかは師匠に耳にクラーケンができるほど聞かされている。
だがメカドラゴンはその隙を狙うこともなく、よろよろと体を動かし、そのまま地底湖へと消えていった。
「わ、私の一撃が効いた……!?
やりました師匠! 騎士として、里を守……いえ、しかし……」
その時。既にザク親方の息は、なかった。
(遅かれ早かれだ。しかし、アイさん。
君はこの結果を、本当に望んでいたのか?)
ドワーフは葬儀のようなものを行わない。
村の全員がザク親方の最期の顔をちらりと見ただけで去っていく。
そして最後に、妻の手で地下水脈へと亡骸が流された。
「この水脈の先は?」
「海に通じています」
なら、地下水の汚染も心配ないか。
そう考えてしまうほどには、ヨッシーの心は冷めていた。
「こんな……こんなことって……
日本刀の再現、まだじゃねぇかよぉ……!」
水脈に向けて泣き崩れるのは、ユウキだけだった。
ドワーフの文化はピダハンの文化に極めて近い。
この葬儀を行わず、墓も作らないあり方は、ヨッシーとサダコ姉には想定の範囲内だったのだ。
死者を最後に一瞥し、ただ去っていくドワーフ達の姿はピダハンとまるで同じ。
彼らに、過去は存在しないのだ。
「くそっ……ならせめて!
せめて日本刀を完成させて! それを手向けに……!」
しかし、その頃里の中では。
「爆発したメカドラゴンの後ろの壁が崩れて未知の坑道が!」
「知らない金属があるぞ!」
「メカドラゴンの装甲も知らない合金だ!」
ドワーフ達の興味は、既に移り変わっていた。
そしてこの日。溶鉱炉の火が、消えた。




