11-3:メカドラゴン蹂躙劇! 破壊された里を笑顔で再建するドワーフ達から幸せの意味を学んでみた!
――1ヶ月後
今日も鉄を叩く音が響き続けるアーティ鉱山。
そこに今、ある問題が起きていた。
「出来たぞ。試し切りだ」
「だがもう牛肉がないぞ」
「当番行商に行っていないからな」
「酒もなくなった」
「だが仕方ない。次だ」
そう言ってドワーフ達は足元の石を拾って口に入れた。
「ね~? スモークサーモンと干ししいたけたくさん買ってきて正解でしょ~?」
「結果的にな。だが、この結末は予想できなかった」
「おい、引いてるぞ」
「おっとと!」
地底湖のほとりで魚釣りに勤しむ4人の背後でひたすらに刀を打ち続けるドワーフ達は、他の作業のすべてを投げ出していた。
行商のための武器を作ることも、鉄以外の希少価値の高い魔法金属を掘削することも、地底湖の釣りで食料調達を行うこともなく、鉄を叩いて、叩いて、叩き続けた。
それは文字通り寝る間を惜しんで続き、この1ヶ月の間溶鉱炉の火が途絶えることはなかった。
里の食料庫はとうに底をつき、ドワーフ達は栄養分のすべてを溶鉱炉の光に集まる洞窟洞窟内の昆虫をつまみ食いしつつ鉱石を舐めて得ている。
親方の奥さん達も鉄を掘って届けたり溶鉱炉のふいご吹き、出来上がる剣に目を輝かせるだけなのだからどうしようもない。
「だ、大丈夫なんですかぁ?
一応私達でこうして魚を釣って食料庫に入れてますけどぉ」
「それは……」
「このままでは里は滅びます」
そう冷酷に現実を伝えたのは、妖精のアイだった。
「アイちゃん……」
「ザク親方も他のみなさんも話を聞きません。
彼らにとって最も重要なのは『今』ですから。
それによって滅びを迎えても、関係ありません。
そもそも滅びを予測できない。
予測という概念自体がない。
それがドワーフという種族です」
「それって、私達のせいだよね……」
しゅんと顔を落とすサダコ姉。
悲しげな表情が透き通る地底湖の水に反射する。
「いえ、いつものことです。
こうして何度もドワーフの里は滅びを繰り返しています。
前の滅びは確か、車輪を学習し、鉱山の中に線路を作り続けることに躍起になって起こりました。
おかげでその後の鉱山の稼働効率は上昇しましたが。
ともあれ、滅ぶたびに思うのです。
あぁ、またダメだったな、と」
「え? じゃぁ、アイちゃんを拾ったドワーフって……」
「はい。今のザク親方が廃鉱山となっていたこのアーティに来るよりずっと前にこの鉱山で暮らしていたドワーフ達です」
「そんなことって……! アイちゃんは悲しくないの!?」
「当然、悲しいです。
ザク親方達はとても良い方々ですから。
できることなら、今回も滅んで欲しくはない、親方達と別れたくない。
けれど、親方たちは鉄を打つことをやめられず、私には止める言葉がありません。
それはみなさんも同じでしょう。
たとえサダコ姉様でも今の親方達を、いえ、『今』をわからせることは、できません」
「イビピーヨ……」
それは、アイにとってのイビピーヨなのだろう。
おそらく彼女はかつて何度も同じような滅びを止めようとしたはず。
そして、食い止めることができなかった。
彼女は自らの超実証主義的思想をもって、それを理解しているのだ。
「しかし、もし。
もしも今の作業を続けることができなくなれば……」
「それって、どうやって? 鉄はまだまだ枯渇しないって……」
「そうですね。例えば……」
――メカドラゴンが里を襲い、溶鉱炉を破壊してしまうとか。
「いやそれはいくらなんでも……うぉぉっ!? なんだ!? でけぇ!」
その時、ユウキの釣り竿が大きく地底湖へと引かれる。
今までにないあたりに、必死で足を踏ん張るユウキだが、引きはあまりにも強い。
「ヨッシー!」
「任せろ! だが、もしもの時は手を離せよ!」
ユウキの腰に抱きつく形で竿を引っ張るヨッシー。
それでもあまりに引きが強い。
慌てることしかできないサダコ姉の横をすり抜けたキリヤがさらに2人の後に続くが、それでも力が足りない。
「ダメだ! 竿を離すぞ!」
ユウキは竿を手放した。
透き通った地底湖の奥深くへと飲み込まれていく釣り竿。
それと入れ違えに、何か巨大な影が水中よりせり上がってくる。
「な、なんだ? まさか……」
まるで妖怪海坊主のように水中から現れたのは、全長40mにも届く巨大なドラゴンだった。
それも、ただのドラゴンではない。
その身は金属。
関節部にはリペットが打ち込まれた、機械の構造物。
都市伝説で語られた、本物のメカドラゴンだ。
「まじで出たぁ!?」
飛翔と同時に地底湖に大波が立ち、湖畔の4人と1匹は波に飲まれた。
一同を気に留めることもせず、里へと狭い坑道を破壊拡張しながら進むメカドラゴン。
その背に向かい、水中から顔を出したキリヤが駆け出す。
「ぷはぁっ! そうはいかない! 騎士の誇りにかけて、させま……あっ!」
腰元に伸ばされたキリヤの手が、空を切る。
「騎士の剣がありませぇぇぇえええん!」
こうしてメカドラゴンは里に到達。
からっぽの穀物庫をはじめ、里の中のありとあらゆるものを破壊し本丸たる溶鉱炉へと進んでいく。
「前は大砲でやっつけた!」
ドワーフ達がメカドラゴンを前に一列に大砲を並べて迎え撃つ。
「撃てぇ!」
爆音と同時に放たれる砲弾はメカドラゴンの表面装甲に当たって爆発した。
閉鎖空間に近い地下に、爆発の煙と硝煙の香りが広がっていく。
「やったか!?」
しかし、黒煙の中から現れたのは無傷のメカドラゴン。
その首元、本物のドラゴンでいう逆鱗の位置には、Ver.9.71の刻印が輝いていた。
「どけどけどけぇ!」
両手両脇に長物を抱えて前線にかけつけるザク親方。
そのまま設置された大砲の砲塔にその長物をねじ込んだ。
「わしらも前と同じではない! ドリルミサイル、発射ぁ!」
大砲に掘られたライフリングによって回転をかけられて発射されるドリル弾頭。
メカドラゴンの腹部に命中した弾頭はそのまま回転を続け、腹に巨大な穴をあけた。
「ざまぁない!」
だが、返す刀で口から炎が放たれる。
「うおぉっとぉ!」
間一髪回避に成功する親方。
だが炎は溶鉱炉に直撃し、魔石炭と反応し大爆発を起こした。
「あのやろう! 追いかけろ!」
「待ってください! 深追いは危険です!」
ここでようやく駆け付けるキリヤ。
腹に巨大な穴をあけたメカドラゴンはよろよろと地底湖までたどり着き、その水中へと姿を消すのだった。
奇跡的に、今回の襲撃での死者はゼロ。
しかし里は大損害を受け、溶鉱炉も破壊されてしまった。
あまりの凄惨な様相に声を失う一同。
だがドワーフはけろりとした顔で瓦礫を片付け始める。
「溶鉱炉を再建するぞ。
でないと騎士の剣が作れない。
ジム、地上への排煙孔を掘り直せ。
トム、お前はチームを組んで失われた魔石炭の採掘だ。
ポールは俺と溶鉱炉を組み立てるぞ」
「おう!」
こぼれた水は、また汲めばいい。
それだけだった。
作業を進めるドワーフ達の顔には、悲壮感がまるでない。
いつも通りの明るさで鼻歌まじりに作業を進めていく。
「そう、ですよね。
親方さん達は……そうなんですよね」
その様子に妖精のアイは諦めたように笑顔を作った。
しかし。
「な、なんでだよ!? なんで諦めないんだ!? なんでまたメカドラゴンに襲われるかもって思わないんだ!?」
「『かも』なんてものがないからだよ~」
悲痛な叫びを上げるユウキの隣のサダコ姉もまた晴れやかな笑顔だった。
「かつて、研究者たちはピダハンの脳をMRIで測定したことがある。
その結果、驚くべき事実が判明する。
ピダハン達が日々感じている幸福感の量は、現代人のそれを遥かに上回っていたんだ。
ユウキ、幸せとはなんだ?」
「そ、そんなこと急に言われても……」
「なら逆に聞こう。
お前が不幸を感じるのはどんな時だ?」
「そりゃ何回やってもうまくいく予感がしなかったり、こんな辛い日々が毎日続くのかって想像して……あ」
「そうだ。僕達には未来を予測する能力がある」
「それは私達では取り除くことができない、幸せの枷、リミッターでもあるのよ~。
ピダハンにも、ドワーフにも、そんな枷はついてないわ~。
ほんと、羨ましいわね~」
そして数週間後。
ドワーフ達は溶鉱炉を再建した。
それ以外の施設、穀物庫も彼らが寝る家も、トイレでさえもまだ瓦礫の状態だが関係ない。
彼らは今日も石をしゃぶりながら鉄を打つ。
打つ。
打つ。
打ち続ける。
「ハイホー! ハイホー! 金属が好きー!」
それを見ていたユウキは、ようやく彼らに自分の怪談を爆笑された理由を理解した。
こんなに毎日が楽しいなら、自殺なんて思いつくわけないのだ。
「ここまで来たら、日本刀の再現。
絶対成功させてほしいなぁ。
けど、あのメカドラゴンは……」
果たしてドワーフ達は日本刀を再現できるのか?
そして、メカドラゴンの正体とは? 次回メカドラゴン都市伝説編完結!




