8-2:かつて大量殺人が起きたエルフの古い村の場所を特定してみた!
一方のユウキ達は。
「リスだ」
「ラタトスクかもよ。
サダコ姉曰くここのエルフ、まじで世界樹ユグドラシルから逃げ延びてきたらしいからなぁ」
手持ち無沙汰のままに森の生態調査を進めていた。
・世界樹ユグドラシル
北欧神話の舞台となる巨大な大木。
RPGやアニメでは全高数千キロの巨大な木として単純に描かれることが多いが、実際はその観測者が生活する宇宙を内包するものでありサイズは銀河系よりも大きく天元突破している。
世界に数多存在する巨木伝説とは文字通り桁違いの別物。
内部には神々の地アースガルズを頂点に8つの階層に分かれており、かつてエルフたちが暮らしていたとされるアールヴヘイムをはじめ、人間の世界ミズガルズ、巨人の世界ヨトゥンヘイム、霜の世界ニヴルヘイム、炎の世界ムスペルヘイム、そして地獄ヘルヘイムなどとファンタジーに詳しければ一度は聞いたことがあるだろう名前の世界が連なっている。
神々の最終戦争ラグナロクによって崩壊し海に沈んだとされる。
・ラタトスク
ユグドラシルに住むリス。
世界を渡り歩く能力を持ち、離れた世界に暮らす者に異なる世界で聞いた悪口をよかれと思って届けて伝える神話世界の青い鳥インフルエンサー。
北欧神話といえばトリックスターであるロキの醜悪さが印象深いが、このラタトスクもなかなかのもの。
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この森の生態調査が大量殺人事件の謎を解く鍵になるかというと、おそらくならないだろう。
だがひょんなことからまたエルフの墓のような発見があるかもしれない。
「あと5日だな」
「何が?」
「キリヤさんとサダコ姉の結婚式までだろ」
「……あー」
「まさか本当に結婚するわけではないが、するわけではないからこそそれまでに里から離れなければならない。
それが僕達のタイムリミットだ」
「ここまでの調査結果をキリヤに伝えたって、あいつが救えるわけじゃないもんなぁ」
自分の両親が不義理を働き、顔も知らぬ誰かの子として産み落とされたものではないと知るにしても、そこではまた別の十字架を背負うことになってしまう。
あんな綺麗な髪の子には悲しい表情は似合わない。
「ところでユウキ。
お前、山の怪談も詳しかったよな」
「ん? あぁ。いろいろ動画で考察したこともあったよな」
「マタギの人が山で一番怖いというものの話、改めて聞かせてもらえるか?」
「なんで今それ? まぁいいか。……こほん」
軽い咳払いをはさみ、ユウキが怪談師としての表情に変わる。
「これはマタギの男性から聞いた話だ。
仮に……と、名前をおきたいところだが、この話は特定の誰か個人からではなく、不特定多数のマタギの人たちが口を揃えて語る話なんだ。
まぁ正確にはマタギというのは北海道から東北、北関東甲信越にかけて山に入って狩猟する人たちの通称で、この話は中部以西でも聞くから、マタギの話というのもまた違うんだな」
「マタギサミット、また行きたいな」
・マタギサミット
東北芸術工科大学の大学田口洋美教授の提案で20年前から開催されているマタギの広域的交流会議。
全国からマタギの人々が集まり、山と森と人にまつわる様々な情報を交換する。
本物のマタギだけでなく一般からの参加も可能。
マタギ文化の保全と同時に、近年問題視されている熊と人のトラブルについてなども話し合われる。
会議は2日にかけて行われ、毎回膨大な量の酒が消費される。
「それに、これはストーリーのある怪談でもないんだ。
起承転結がない。
ただ、山の中で女を見る。それだけのことだ。
その女と会話して云々とか、見た後で何か事故にとか、そういう話も一切ない。
女の姿も着物を着ているとか尻尾がついているとかもない。
本当に、ちょっとそこまでゴミ出しに来ました、というような寝間着にサンダルみたいなごく当たり前の格好なんだ。
だが、そんな当たり前は山の中の当たり前ではない。
重装備で足腰の強いマタギがようやく到達するような山の中に、そんな寝間着にサンダル姿の女がいるわけがないんだよ。
そんな、絶対にありえないものが確かに見えてしまう。
しかも見たという報告が仲間たちだけでなく別地方のマタギからも聞こえてくる。
だから言うんだ。
山で一番怖いもの、それは普通の女だってな。
ご清聴ありがとうございました」
一礼をしたユウキにぱちぱちと拍手を浴びせるヨッシー。
「で、これがどうした? まさか女を見たのか?
でもそれってエルフじゃないのか?
彼女ら平然とサンダルで深い森を歩くし」
「いや……その。男を見るんだ」
「男? いや、ありえねぇだろ。
この森は男子禁制だろ?
居たらすぐに見つかって追い出されちまう。
一昔前なら座敷牢送りだ」
「だよな。ありえない。
だからきっと、何か別の動物と見間違えたんだ。
マタギの人たちも、女の正体はテンみたいな動物だって言うもんな」
そう言うヨッシーにユウキはニヤリと笑う。
「そうだな。寝ぼけたお前が見間違えんだな。
だけどちょっと怖いんだろう?」
「違う」
そうきっぱり言い切ってから。
「ちょっとではない。
かなり、怖い」
見えてしまうからこそ、怖いからこそ、幽霊などいないと言い張る。
それは幽霊の見えない怪談師のユウキにとっては、羨ましくもあり遠慮したくもある話だった。
「つーかそれって、座敷牢に監禁されてた男の幽霊なんじゃねぇの?」
「違う。僕の幻覚だ」
「ゾンビとコミュニケーションできる異世界で何言ってんだ。
幽霊も種族として存在していておかしなことは何も無い」
「おかしい。
アップフィルドの村長も、キリヤさんも、幽霊などこの世界に存在しないと言っていた」
「いやでも幽霊だって。
きっと何か俺達に伝えたがってるんだよ!
こちとらすっかり調査が暗礁に乗り上げてるんだぞ? その幽霊からヒントを……」
「やめろ! 僕はそんな非科学的なことを信じないぞ!」
にやにやと笑いながら馴れ馴れしく肩に手を回すユウキを払い除けたところで、ふとヨッシーは気付く。
「光が、差し込んでるな」
「ん、あぁ。だいぶ北まで来てたみたいだ。
ほら、話したろ。
プリングさんのログハウスがあるとこだよこの辺」
このあたりの木は若く、森の林冠も低い。
結果として薄暗い他とは異なり、だいぶ明るくなっているということだ。
「この辺の木は若くて、まだホロゥも作れないらしいぞ」
「……何故だ?」
「いや、ホロゥの作り方なんて知らんけど。
そういうもんなんじゃねぇの?」
「違う。何故このあたりだけ木が若いんだ?」
「え?」
そう言われて気付き周りを見渡すユウキ。
確かに、この一帯だけ明らかに木が若い。
ざっと見た感じの概観だが、おそらくプリングさんのログハウスを中心とする半径300m程度のエリアの木だけが露骨に若いのだ。
「……そうか! そういうことか!」
「あぁ。謎が1つ解けたな。
犯人が1日で150人のエルフを殺した方法。
それは」
「森を焼いたんだ! おそらくは深夜に、ホロゥの中で眠るエルフごと!
そしてここは、かつてのサイドグルーヴがあった場所なんだ!」
「当時はグルーヴとだけ呼ばれていたがね」
がさりと草が踏み込まれる音に振り向くと、そこにはプリングさんの姿があった。




