50-2:毒殺対策を万全にしてみました!
「なるほど、それで私のところに」
オーディンは予想外の来訪者を歓迎し紅茶を出した。
「私達エルフの信仰するユグドラシルの神々の頂点。
そして、この世で最も全知の近いお方。
どうか、呪いへの対処法を授けください」
紅茶には手をつけず、目の覚めるような鋭さで頭を下げるキリヤ。
新世代の若き騎士からの真剣な願いを聞いたオーディンは。
「断る」
「なんでー!?」
その願いを無下にした。
「それはそうだろう。私は答えを知っている。
そんな私が答えを教えたなら、それはナイノメ君の思いを無下にすることになる。
なにより、他の3人もそんな方法での決着を望まないはず」
「そ、それは……」
そういえば師匠から聞いていた。
エルフの森の謎を解いた時にも、ユウキは答えを教えるという師匠の申し出を断っていたと。
「君は実直だ。
そして正しい意味で、勝利のために手段を選ばない。
それはエルフの騎士としては正しい……
だが、あの3人と共にありたいと願うならば、誤りであると知るがよい」
「ぐぅ……!」
何も言い返せない。だが、それでも。
それでもこのままでは「あの人」には勝てない。
ただのゲームであるとしても、座して死を待つことは騎士道の理念に反している。
ならばこの先、医学も科学も魔法も呪術もまるで知らない自分はどうすればいいのか。
やはりトップダウンでの対処に回ると見栄を切ったのは無謀だったのか。
いや、わかっている。
ヨッシーは自分には最初から何の期待もしていない。
あの人はあの人で自分の全力を尽くして戦うつもりだが、それはそうと私のことを舐めているのだ。
そこに悔しさを感じないと言えるほど、キリヤは出来てはいなかった、
「そう怖い顔をしてくれるな。トリスメギストス」
「はい、オーディン様」
「力になってやるがよい」
「わかりました。
しかし、私は錬金術師。
呪術は門外漢です」
「だからちょうど良いのだろう」
まさかの協力者にキリヤは唖然とするも。
「よろしくお願いします。キリヤさん。
私はオーディン様と違い、なんでもは知っていませんが……
知っていることは、知っていますよ」
「ヘルメス3……! はい!
不束者ですが、よろしくお願いします!」
笑顔で頭を下げるキリヤの表情も見ず、オーディンの左目が髪の奥で狂気に輝く。
(良い流れだ。
ナイノメ君の暴走を見てみぬふりした甲斐があったというもの。
完全に私の予想できないところに進もうとしている。
あぁ、いいなぁ。わからないことが増えていく……
楽しいなぁ……ふふふ……ふふふふふ……)
そんな全知故の狂気に気付くこともなく、強力な協力者を得たキリヤは相談に入る。
「なるほど。
つまり、呪いの原因が2つであることには気付いているのですね」
「はい。1つはゾンビのみなさんに蔓延していたくる病のような、病気に繋がる栄養不全、毒物、あと、ホウシャセン?みたいな体に直接関わる直接物理攻撃。
一方のもう1つは、人の思い込みの力を用いた、精神攻撃です!」
「よく勉強していますね。
そこにあと、その両方を併せ持つものも入れれば大方網羅されるでしょう」
賢い人に褒められて笑ぬがこぼれかけるキリヤだが、遅れて気付く。
「えっ!? これで全部じゃないんですか!?」
「そうですね。
それらで呪いの70%というところでしょうか」
「10個に7つ!? 呪いには他にもやり方があるんですか!?」
「私はあると思います。
しかし、この残り3つは極めて対処が難しく、また、準備期間も含めればたった3ヶ月では……」
と、ここで気付く。
キリヤだからからこそ気付けた呪いの正体、それは。
「遺伝というやつですか!?」
「なるほど。流石ですね」
かつてのエルフを苦しめていた遺伝の罠。
考えようによってはこれも世代をまたいで伝わる呪いだ。
「確かに子供や孫の代で発現する呪いもありますね……むむ、呪い、奥が深いです」
「そうですね。
ハプスブルク家と呼ばれた人々はこの遺伝の呪いで自滅しました。
ともあれ、これは今回の勝負では考えなくても大丈夫でしょう。
今回は他の手段についての防御手段をいっしょに学んでいきましょうね」
「よろしくお願いします!」
こうして学びを得て、しっかりと門限までには帰宅するキリヤ。
厨房からは良い香りが漂っており、ナイノメを含めた5人で夕食となるのだが。
「待ってください! 配膳は私がやります!」
「お、率先して働くとは偉いぞゴールデンレトリバー」
ふふんと自慢気などや顔と同時にキリヤはヘルメス3から貰ってきた呪い避けのアーティファクトを取り出す。
「へぇ~。キリヤちゃんらしい呪いの防御手段ね~」
それは、銀の食器であった。
「ヘルメス3に錬金術で作ってもらいました!」
中世ヨーロッパ。
貴族たちの間では権力闘争が日常化しており、血の繋がった家族からも毒殺に警戒が必要な時代だった。
そんな当時に貴族たちが愛用していたのが銀の食器である。
この当時使用されていた毒物の代表はヒ素である。
日本でも和歌山毒物カレー事件で有名になった毒物であるが、銀はヒ素に反応して黒く変色する性質がある。
化学反応式は省略するが、硫化という現象である。
ただ、当時に知られていた毒物の中には、毒のように見えて実は毒でもなんでもない物も多く含まれていた。
その代表例が豚肉である。
豚肉は今も普通に食される肉であり当時も広く食されていたが、その中でも特殊な豚肉は強い毒を持つ。
それは、加工前に激しい殴打などを伴う残虐な方法で殺した豚の肉である。
豚は過度のストレスを受けることで肝臓にプトマインという毒素を蓄積させる。
これは事実であるのだが、そもそもこの毒物を発見した経緯に呪術的側面があったことは確かであり、なまじ豚の毒が事実であったが故に、同じような背徳的な方法での調理が毒に繋がると信じられていた可能性は極めて高い。
ちなみに横道にそれるが、この豚毒プトマインを使用したとされる代表的な毒が、都市伝説やオカルトでよく聞く中世ヨーロッパの悪徳貴族ボルジア家が使用していた謎の毒薬カンタレラなのだが、このカンタレラの特徴として興味深い記述が残されている。
この毒、非常に味が美味であるらしい。
プトマインを精製するにあたって豚を凝った方法で飼育・屠殺するボルジア家。
それが結果的に当時最高ランクの豚肉を作る形になっていた可能性があるというのはどこか微笑ましい事例でもある。
閑話休題。
このように、当時の毒とは呪術的な部分が含まれる物が多く存在していた。
そのため銀に求められたのは、このような呪いから身を守る聖なる側面でもあった。
狼男や吸血鬼を殺す銀の弾丸とも言われる通り、銀には魔除けの効果が信じられていた。
つまり、ヒ素が銀と反応し黒くなるからというのはおそらく「たまたま」であり、本来の銀の食器は聖なる力で呪いから身を守るための魔除けのアーティファクトだったのだ。
「変なものを食べさせようにも無駄ですよお姉様!
ヘルメス3の作ったこの食器は、おかしなものが入っているとピンクに光りだします!」
「どういう理屈だ!?」
「あと、何故かヒソとかいう毒にも反応して黒くなるらしいです!」
「むしろそっちの原因がわかってないのかあの人が!?」
そんなどや顔のキリヤにも突っ込みを入れずに笑顔のサダコ姉。
「確かに食べ物に何かを盛るというのは悪くない手段よね~。
ナイノメが助けてくれると言ってるんだし、そういう手段もアリかもしれないわ~」
「アリかもじゃねぇんだよ! そこはライン越えだろ!」
「まぁライン越えというよりも、これは正直今回の勝負ではルールの穴をついた禁じ手だと思うのよね~。
例えばだけど、このシチューにヒ素や青酸カリを入れて出したとして、ヨッシーに食べさせたとして、症状が出た後でヨッシーはそれがヒ素や青酸カリだと気付けるかしら~?」
「気付くことは至極簡単だろうな。
だが、体内に取り込んだ時点で手遅れ。
ナイノメにドクターストップを入れられて敗北だ」
「でしょ~? それってわけのわからない呪いで殺したわけじゃなくて、後ろから辻斬りしたようなものなのよ~。
それは流石にフェアじゃないわ~」
「でもこの世界にはお姉様達の異世界にはない食べ物もあります。
そういうところから毒を用いるなら、ヨッシーさんにも気付けない未知かもしれません」
「そうね~。でもそれは、単純に」
「面白くない」
「そういうこと~」
当然とばかりに答えるヨッシー。
ここで再びキリヤもハッと顔色が変わる。
これは殺し合いであると同時にゲームでもある。
3人はこの状況を楽しんでいる。楽しいことは絶対条件だ。
なら、毒は呪いとしても使ってくるはずがないのだ。
「……くぅっ、またしても不覚を取りました」
「まぁ発想自体は悪くないだろう」
「そうよ~。こういう機会に学ぶのは良いことだわ~」
「俺としちゃお前が頼もしくなってくれるのはうれしい限りだよ」
と、3人からそれぞれに褒められるのだから悪い気もしないゴールデンレトリバーなのであった。
「あ、すまんキリヤ。配膳、6人分頼む」
「え? なんで?」
「いいから」
頭からはてなマークを浮かべつつ6皿目を持って居間に向かうと、そこには椅子が6つ。
「さ、食べましょうか~」
いつも通りのサダコ姉。
「…………」
不機嫌そうなヨッシー。
「どうしたの? 座りなさいな」
我関せずのナイノメ。
「よーし、ヨッシーもご飯食べようなぁ」
意味不明なことを言うユウキ。そして。
――…………
さも当然とばかりに席につく奇妙な人形。
「いやなんですかこれ!?」
「ヨッシーの髪と爪を仕込んだヨッシー人形だ」
「ゴミの日が明日だったのは不覚だったわね~。私も回収したわ~」
「いやそもそも気持ち悪いの食卓に持ってこないでくれますか!?」
「なんだと?」
そう言い眉間にシワを寄せたユウキ。
即座に拳を振り上げヨッシー人形を殴り飛ばした。
「ひっ!? な、何をやってるんですか!?」
「てめぇが気持ち悪い顔してんのが悪いんだよヨッシー!
辛気臭い顔しやがって! 笑えよっ!
笑えないなら死ねッ! 今すぐその紐で首くくって死ねッ!」
「怖い怖い怖い怖い怖い!」
どうみてもホラー映画のワンシーンが展開される様子に震えるキリヤ。
笑顔のサダコ姉。不機嫌そうな顔をしつつも無視のヨッシー。
我関せずのナイノメ。
「気にするなキリヤさん。
つまらん小芝居だ。何の意味もない」
「も、もしかして今日から毎日これなんですかぁ……?」
ヨッシーを呪い殺すことに本気のユウキはマジで手段を選んでいない。
こんなことが3ヶ月も続いて正気が維持できるのか。
なにより、この3ヶ月でヨッシーと名付けられた人形は人形のままで終わることができるのか。
そんな様子を楽しそうに笑うサダコ姉と、本気で無視しているヨッシー。
ナイノメはさておき、改めてこの3人はやばすぎる。
小動物のように怯えつつキリヤが机に座り、どうにかこんな中でも食事を思ったその時。
「私の食器だけピンクに光ってます!!」
「あ、それホントだったのね。
ごめんなさい。利尿剤と興奮剤入れたのは私よ」
「ナイノメさん!!」
まさに四面楚歌! がんばれキリヤ!
おそらくまともな人間は君しかいない!
――異世界オカルトチャンネル7! ~空想魔撮シリーズ~
「小宇宙」
「炎魔焦熱地獄」
「竜破斬」
「幻想殺し」
「機械駆使」
「月兎遠隔催眠術」
「不義遊戯」
「滅びの爆裂疾風弾」
「魔界の凝視虫」
「俺の両手は機関銃」
「約束された勝利の剣」
「山吹色の波紋疾走」
「厨二病の季節はついつい漢字にルビを振りがちです。
思春期の変わり目、特に喉をお大事に。
せき・こえ・のどに朝田飴」
――異世界オカルトチャンネル7! ~空想魔撮シリーズ~
「呪いにかかっているな。キリヤさん」
「私の方でした……!」
「これが、トップダウン式の呪い対策だ」
――このチャンネルは。
「死ね死ね死ね死ね死ねッ! このゴミがッ!」
「2人には何の効果も出ていない。呪われているのは……」
「助かるよ、ナイノメ」
ゼウス
オーディン
イシュタル
「こうして処理してくれるなら、私もようやく動けるわ~」
「まったく……僕を殺すんじゃなかったのか?」
「殺したいけど殺したいわけじゃないのよ~。友達だし~」
天照大神
ポセイドン
イルルヤンカシュ
「領域展開。闇に落ちなさい」
「ルール以前の問題。人としての当たり前でしょう」
「その女に人としての当たり前が存在しないんだよ!」
――ご覧の神々の提供でお送りします
「本当に笑わせてくれるわ。この私に歯向かおうなんて。
さぁ、完全勝利まで止まらないわよ。
ベッドの上でだけ嗚いているならまだ幸せだったのに。
私に恐怖し、心酔し、心の底からただの雌犬であることを認めてお姉様と呼びなさい。
そして今回こそ、恥ずかしい姿を晒してもらうわ。
次回はR-15を通り越してR-18よ。
挿絵はもう用意してあるんだから」
――異世界オカルトチャンネル7! ~空想魔撮シリーズ~
「勝てない」
――この後すぐ! 衝撃の結末を見逃すな!
「先輩、その、私……」
「いや、僕は……その……くしゅん!」
「あ、先輩、くしゃみかわいい」
「そ、そうかな? あはは……」
「そうですよ、先輩のそういうとこが……くしゅん!」
「……今日はもう帰ろうか」
「そ、そう、ですね。また、明日……」
――バッファリンの半分はやらしさで出来ています。
胃に優しくて早く効く。風邪にバッファリン。
R・・・サイト内のランキング
E・・・ブックマークや評価で伸びるスコア変数
F・・・作者が小説を更新する頻度
M・・・作者のモチベーション
更新持続率はMに比例する。
以上の公式より、さらに続きが読みたい場合はEの値を増やすことが有効に働くことが数学的に証明できる。
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面白かった回に「いいね」を押すことで強化因子が加わり、学習が強化される(1903. Pavlov)
※いいね条件付が強化されると実験に使用しているゴールデンレトリバー(上写真)が賢くなります。
※過度な餌付けはご遠慮ください。
挿絵にはPixAI、Harukaを使用しています。




