48-1:SAN値直葬! カンビュセス計画に立ち会ってみた!
邪神クトゥルー。
旧支配者の筆頭であり、今なおルルイエの館で眠り続ける異形。
その姿を見ることはもちろん、名前を聞くだけでほとんどの人類は発狂し狂人となってしまう。
これは、人類のDNAに彼らが支配と恐怖の象徴として刻み込まれているために他ならない。
ゲーム、クトゥルフ神話TRPGにおいてはプレイヤーの正気度を示す値をSAN値と呼ぶ。
殺人現場や邪教の儀式、もしくは、現代に蘇った旧支配者の眷属を目撃するなどの大きな精神的ショックを受けた際には正気を維持できるかどうかの判定を行う。
これがかの有名なSAN値チェックである。
判定と言うからには成功失敗があり、ほとんどのSAN値チェックでは成功で0から3の減少、失敗で4以上のSAN値が減少するパターンが多い。
なおSAN値の初期値は60~70ほどで、ここから20ほど低下してしまうと後の生活に大きな障害を背負うこととなる。
そんな中、極稀にではあるが眷属ではなく旧支配者本体を目撃してしまうケースがある。
この場合、判定に成功して10~20、失敗で50以上を持っていかれることが一般的で、このあまりにあまりな理不尽は「SAN値直葬」などと言われることもある。
誰がうまいことを言えと言ったのだろうか。
邪神クトゥルーの名も文字にすると「くとぅるう」だが、これは本来人間には発音できない音であるとされる。
その本来の発音で名前を聞いた場合もSAN値チェックが要求され、ここでも4~10のSAN値が持っていかれるのが一般的。
ちなみに、ゲーム上では一度に5以上のSAN値を削られた場合、一時的な狂気状態となりプレイヤーの操作を受け付けない状態になってしまう。
ここで概ね絶対に見てはいけないものを見るなどのやらかしへと連鎖しSAN値直葬までの流れがテンプレートだ。
さて、ではナイノメから邪神クゥトルーの名を聞いてしまった面々はというと。
「……ようやく冷や汗が収まったぜ」
ユウキ、セーフ。
「人類に刻まれた恐怖のDNA。
与太話とも言えんな」
ヨッシー、セーフ。
「たこ焼き食べたいわ~。
ポン酢で~」
サダコ姉、平常運転。
「あわわわわわわ」
キリヤ、アウト。
「なんだこの予定調和感は」
「とりあえず腰元の刀を回収しておけ」
「もう、しょうがないわね~」
コートの中から鞭を取り出すサダコ姉。
その鞭でブリッジの床を強く叩く。
ヒュンと風を斬る音の直後に、パンと乾いた音が響いた。
この風斬り音の正体はソニックブームである。
つまり、鞭の先端は音速を越えているということになる。
明日から使えるSM科学豆知識。
「ひゃん! ご、ごめんなさいサダコお姉様!」
「はい正気に戻った~」
「パブロフの犬か」
「あいつ、まさか最初からこの展開を予期して……?」
・パブロフの犬
生理学の研究者イワン・パブロフ(1849~1936)が行った有名な実験。
飼い犬に餌を与えると同時にベルを鳴らすことを繰り返した結果、この犬は餌がなくともベルの音を聞いただけでよだれを垂らすようになってしまった。
2つの全く異なる刺激が常に同時に与えられることでこの2つが条件付され、片方の刺激だけでもう片方が自動的に錯覚されてしまうという現象で、古典的条件付けと呼ばれる。
生理学と動物行動学に大きな衝撃を与えた実験であると同時に、現代では心理学でも大きな意味を持つ現象として考えられ、様々な心理療法で用いられている。
この条件付が成立することは単純な知能向上とはいい難いが、ペットや雌豚の調教としてはとても効果的なのよ~。
この機会に気に入ったところや面白かった回を思い出してそこのリアクションをクリックしてもらうとキリヤちゃんが賢くなるわ~。
解説が途中から乗っ取られただと?
というか、確かにこの展開はある種の予定調和ではあるのだが、その解決のための伏線としてこれ以上に最悪なものが存在するのだろうか。
「しかし、ルルイエの半分というのは……」
モニターを見るユウキ。
緑の4つのリングが絡み合ったような形をしている巨大人工構造物だが、どこかで同じような形の物を見たような気がする。
そっちは黄色で、天使の光輪みたいな名前だった気がするが。
「あの中央に黒騎士衛星を収めるんだな」
「よくわかるわね」
「なんとなくサイキックウェーブが一気に拡散されそうな気がする」
「サイキック斬ですか!?」
「ちげぇよお前ごとロケットパンチ打ち込むぞ」
レーザーブレードのテーマが聞こえるのだが、これも条件付なのだろうか。
「現在ルルイエは秒速5mで浮上中。
成層圏まであと10時間あまりです」
「黒騎士衛星の方を動かすことはできないのか?」
「単純に出来るかどうかで言えばできるわ。
けれど、敵に気付かれずに動かせるかと言われれば無理でしょうね」
「ルルイエはまた作れても大いなるCには替えがないってことか。
そういう話で言うなら、この戦いに負けたら終わりなんだから同じじゃね?」
「Cが討たれたらこの銀河一帯が終わるわね」
「最悪の最期っ屁だな」
「つまり、あと10時間、ルルイエを守りきれば勝ちということかしら~」
「そうなるわね。
ルルイエの外殻がうまく動けば、神々の記憶を書き換えることができるわ。
そうすれば、私も生き残れるし、魚人達も今よりも良い生活ができる。
それがこの作戦。カンビュセス計画よ」
「案外まともな終わりを目指してるな。安心したぜ」
「まぁ二度と海を見られないトラウマも植え付けるけど」
「前言撤回だ」
「それで、ここから何をする?」
「この深海から現場統括指揮に徹するわ。
私はこの艦が落ちて海に投げ出されてもなんとかなるけど、あなた達は死ぬでしょう?」
「そういう良心があるのは助かるのだけど、なら私達はどうして連れてこられたのかしら~?」
「隣から小気味良い突っ込みを入れてもらいつつ、いっしょに最前列で鑑賞会したらきっと楽しいし、ささやかな復讐になるかなって」
「クソッ!! やはりこいつを信じた俺達がバカだった!!」
「はい、コーラとポップコーン」
「ホットドッグはないんですか!?」
「投げられた時にモニターが汚れるからダメよ」
・映画館のポップコーンの起源
案の定というべきかハリウッドを擁する映画の国アメリカ。
当時は上映マナーも何もあってないようなもので、映画の質もピンキリな上に今より全体的に低めだったため、クソ映画を見せられた観客が暴徒化することは日常茶飯事だった。
そんな映画館ではアメリカらしくホットドッグやピザなどのファーストフードが提供されていたのだが、暴徒化した観客は食べかけのそれらをスクリーンに投げることで憂さ晴らしとし、結果劇場スタッフは毎回スクリーンの掃除を行う必要があった。
これは大リーグなどのスポーツ会場でも同じだったが、スクリーンはスタジアムと違い汚れが致命的となるため、これは劇場管理者の悩みのタネとなる。
そこで考案されたのがポップコーンである。
ポップコーンであれば投げてもスクリーンが汚れず、また、観客に当たっても喧嘩に発展しない。
こうして瞬く間にポップコーンは映画館の定番となった。
今の劇場のポップコーンは割高であるが、その値段はスタッフの清掃コストが内包されているためであり、スクリーンに投げること前提の値段設定である。
今後のクソ映画鑑賞の際には是非劇場でポップコーンを購入して欲しい。
こうして、歴史上最長の10時間がはじまる。
昇平丸を旗艦とする黒軍のルルイエ殴り込み防衛船団は開戦当初87隻。
内、大破及び轟沈17隻。中破45隻。
未帰還の艦載機は228機となったが、残り2分にして。
昇平丸、健在。
エルフロボ、健在。
そしてカンビュセス計画は最終フェイズへと進む。