46-2:UFO怪談の影に蠢く黒尽くめの男の噂を解説してみた!
こうしてこそこそと行動を開始した一同。
元アトラントローパ計画中心拠点、パンゲア・アトランティス島へ繋がるビッグブリッジ。
アトラントローパ計画が中止されてなお地中海エリアの行政拠点とされているこの島は、過去のテロの教訓もあって大天使による厳重な警備体制が敷かれてる。
特に今はティタノマキア下ということもあり、ピリピリとした空気が肌に伝わってくる。
(N-アルゴーの残骸は……あそこか)
そこにはビッグブリッジに突撃した後にバリアとバリアの激突で弾かれ浅瀬に突き刺さったN-アルゴーの残骸がある、はずなのだが。
(……艦橋もだが沈み方からして形が変わってないか?
なんで誰も気付かないし誰も突っ込みを入れないんだ?)
ともあれ、これからの行動は神々に牙を剥くこと。
神々の忠実な下僕である大天使による厳重な警備体制の中、N-アルゴーに乗り込むことは難しい。
そもそも、こっそり修理していたという話も怪しい。
一体誰がどうやって修理したというのだ。
「さて。着替えましょうか」
「着替え? なんで?」
「嫌ですよ! どうせ体のラインが出るボディースーツでしょ!
昭和だから許されてたデザインを堂々と平成にそのまま持ってくるつもりなんです!
えっちです!」
「お前のその偏った知識はなんなの?」
そんな流れでナイノメが用意したのは、決してSFめいたコスプレスーツではなく、ごくごく当たり前の古着。
洗濯はされているようだが漂白剤の効果も虚しく汚れで黄ばみ、さらにアイロンはされておらず、袖口はよれよれで糸がほつれている始末だ。
「う~ん、ちょっと服の趣味以前の問題っていうか~」
「それとこれもです」
渡されたのは付け髭シート。
2ヶ月ほどヒゲをそらずに放置した感のある絶妙な不潔感がただよう長さの無精髭だ。
「なるほど。
そういうことな」
意図を理解し着替え始める一同。
サダコ姉とキリヤは流石に嫌がっていたが、実は服の黄ばみは本物ではなくそれらしく染められていただけで、よれよれの袖口すらそういう加工だと気付いた後はどうにか納得したようだ。
「お? ナイ姐さん! お疲れ様っす!」
「こびうる暇あったら働きな! こらそこ!
甲板でポケカやってんじゃないよ!
酒も飲むなとは言わないが、せめて酒瓶を放置するのはやめな!」
「へいへい」
甲板でだらだらしていたのは、どう見てもその辺のゴロツキと言わんばかりの男たち。
どうやら彼らはクズ鉄回収のためN-アルゴーの残骸を引き上げたギルドらしい。
酒、タバコ、カードと甲板はひどいありさまで、文字通りの掃き溜めだ。
男達は一同の前でも平気で甲板につばを吐き、海に向かって立ちションベンをする。
そこで100mしか離れていないビッグブリッジの上を警戒していた大天使と目があい、イチモツをぷらぷらさせたままにへらと笑って手を振る男。
大天使は顔をしかめ、手でしっしっと汚いものを見せるなとジェスチャーを取って顔を背けた。
そんなスラムさながらの最悪の環境には流石に眉を潜める。
一同を案内する男も最悪だ。
背中を丸めてガニ股で歩き、あろうことか歩きながら股間に手を突っ込みぽりぽりとかいている始末。
性病が伝染りそうなので絶対に握手したくない。
そんな男に付き従って船の内部に足を踏み入れた、その瞬間。
「誠に失礼しました。
どうぞ、お召し物はこちらで」
「お疲れ様」
男は突然背筋をただし、目が醒めるような敬礼を向けた。
汚れた髪を払うとフケが舞い飛んだが、おそらくこれも本物のフケではないのだろう。
「ありがとう。着替えさせてもらうわね。
あなた達も、元の普段着と時代錯誤なSFスーツどっちがいい?」
「あ、いつもので」
時代錯誤なSFスーツ自体はあるらしい。
「すごいわね~。まるでオルテラよ~」
「オルテラ?」
「第二次世界大戦当時のイタリア軍が建造した要塞ね~。
この要塞オルテラは、ジブラルタル半島のイギリス軍基地からわずか1kmほどしか離れていない目視可能な場所で堂々と建造されたのよ~。
沈没船を引き上げ、その内部を魚雷用工匠や潜水艇発進ハッチに改造し、ジブラルタル基地への攻撃への秘密基地としたの~。
基地内で活動する特殊部隊は粗野な行動演技を徹底教育され、ボロボロの服と無精髭で民間人を偽装~。
ジブラルタル基地への攻撃も成功させ、連合軍の船を何席も沈没させるのよ~。
そして、第二次世界大戦が終わるまでこの連合軍の目と鼻の先の秘密基地は気付かれずに堂々と存在していたの~」
「まさに事実は小説より奇なりだな」
こうして大天使たちの目の前で堂々と引き上げられ堂々と修理されたN-アルゴーは、クトゥルフ陣営の超科学によってさらなる力を授けられることとなり、改めて元ネタ通りの海に沈んだ超科学文明の技術で建造された万能戦艦として生まれ変わっていた。
ボロボロなのは外見だけ。
しかもそれはすべて、プラモの汚し技術にも通じるフェイクだ。
ユウキの指が汚れた窓のサッシをなぞる。
普通なら指の表面が黒く汚れるはずなのだが、指は綺麗なまま。
「こいつらは良いプロモデラーになれるな。
機会があればアパートに積んでいたダグラムのコンバットアーマー、1/72アイアンフットのプラモを組んでもらいたいくらいだ」
「私もプラモ得意だけど~」
「得意とか以前にお前には絶対に組ませねぇよ!
恨みがあるんだ! 恨みが!」
サダコ姉はかつて勝手に合鍵を作ってユウキのアパートに侵入し、積まれていたすべてのプラモを組み上げるというド畜生行為を犯した過去がある。
たった3日家を開けただけで2桁あったはずの積み箱がすべて開封され、丁寧なマスキング塗装とスミ入れを済ませ完璧に仕上げられていたガンプラが並んでいた。
その時のユウキが膝から崩れ落ちた様は、もはや絶望の二言では言い表せるものではなかった。
なお、1/144すーぱーふみなだけパテを用いた魔改造がされており全裸のエロフィギュアとなっていた。
隣に居たユウキの両親が、バカ息子にしては部屋が綺麗に片付いているなと思いつつも顔を引きつらせていたことはもう思い出したくないそうだ。
そんなトラウマはさておき。
奥の部屋から首だけを出してけらけらと笑っていたサダコ姉に一瞬振り返るもすぐに目を逸らす。
どうやら着替え中だったらしい。
もう少し一応体だけは女であることを自覚して欲しい。
ため息をつき、改めて目線を窓の外へ。
その視界に、船上のゴロツキとは明らかに違う清潔感のある黒いスーツの男が入る。
「ん? なんだあいつら……」
「伏せろ!」
「うぉっ!?」
突然ユウキを押し倒したヨッシー。
なにやら窓の外が光ったようだがユウキの視界には入らない。
何事かと払い除け、文句を言おうとした瞬間に目に入ったのは、先程自分達を案内していた完璧なゴロツキを演じていた男が白目を向いてよだれを垂らし放心している姿だった。
「……は?」
「随分気付かれるのが早いわね。
2人とも、早くこっちへ。
隔壁を下ろすわ」
「お、おい! 今のは一体……」
「いいから早く来い!」
何かを知っているヨッシーに引きずられるように船内奥へと逃げるユウキ。
ナイノメの宣言通りに隔壁が降ろされ、内部には緊急事態を告げる警報が響いた。
「お前、何知ってんの!?」
「僕も何度かやつらにやられている。
いや、正確に言うならば、やられている『はず』だ」
「どういうことだよ!?」
いつになく真剣な様子のヨッシー。
これはただ事ではないとユウキも真顔になる。
「メン・イン・ブラックだ。
聞いたことくらいはあるだろう?」
「まさか! あの映画の元ネタの!?」
「映画ではなく元ネタの方が先に出るあたり流石だよ」
・メン・イン・ブラック
UFO怪談とあわせて語られる怪異、もしくは謎の工作員。
黒いスーツとサングラスの姿で想起されることが多いが、関西電力のおばちゃんの姿などでも発見されている。
UFOに関する秘密に近づく者の元に現れ、証拠や資料の焼却、時には記憶処理までもをするとされる。
1997年にSFコメディとして映画化されて以来そういうキャラクターと思う人が増えたが、その実態は不明で、CIAのエージェント、もしくは本物の宇宙人であるとも。
現代でもUFOに纏わる怪談を追うオカルト研究家や怪談師は少なくないが、そんな彼らが口を揃えて言う話として「UFOに纏わると思われる怪談に関してだけ、取材のドタキャン率が異常に高い」とのこと。